宮澤賢治




イーハトヴ童話

注文の多い料理店



宮澤賢治著


菊池武雄挿画装幀







    序

1

わたしたちは、氷砂糖こほりざとうをほしいくらゐもたないでも、きれいにすきとほつたかぜをたべ、もゝいろのうつくしいあさ日光につくわうをのむことができます。

2

またわたくしは、はたけやもりなかで、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびらうどや羅紗らしやや、宝石はうせきいりのきものに、かはつてゐるのをたびたびました。

3

わたくしは、さういふきれいなたべものやきものをすきです。

4

これらのわたくしのおはなしは、みんなはやしはらや鉄道線路てつだうせんろやらで、にぢつきあかりからもらつてきたのです。

5

ほんたうに、かしはばやしのあを夕方ゆふがたを、ひとりでとほりかかつたり、十一ぐわつやまかぜのなかに、ふるえながらつたりしますと、もうどうしてもこんながしてしかたないのです。ほんたうにもう、どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、わたくしはそのとほりいたまでです

6

ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでせうし、ただそれつきりのところもあるでせうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。

7

けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりのいくきれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません。

   大正十二年十二月二十日                 宮 澤  賢 治


    目  次

どんぐりと山猫…………………………………(一九二一・九・一九)………… 一
狼森と笊森、盗森………………………………(一九二一・一一・……)………二三
注文の多い料理店……………………………(一九二一・一一・一〇)………四三
烏の北斗七星…………………………………(一九二一・一二・二一)………六五
水仙月の四日…………………………………(一二九二二・一・一九)………八三
山男の四月……………………………………(一九二二・ 四・ 七)………一〇三
かしはばやしの夜………………………………(一九二一・ 八・二五)……一二三
月夜のでんしんばしら…………………………(一九二一・九・一四)………一五五
鹿踊のはじまり…………………………………(一九二一・一九・一五)……一七一





■このファイルについて
標題:注文の多い料理店


目次

著者:宮澤賢治
発行:大正十三年十二月一日
販売元:杜陵出版部/東京光原社
本文:「注文の多い料理店」
     新選 名著復刻全集 近代文学館   昭和51年4月1日 発行
                                (第14刷)
表記:原文の表記を尊重しつつ、Webでの読みやすさを考慮して、以下のように扱います。

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○行間処理(行間220%)を行いました。

入力:今井安貴夫
ファイル作成:里実工房
公開:2005年9月2日