1 雪婆ゆきばんごは、遠とほくへ出でかけて居をりました。
2 猫ねこのやうな耳みゝをもち、ぼやぼやした灰はいいろの髪かみをした雪婆ゆきばんごは、西にしの山脈さんみやくの、ちぢれたぎらぎらの雲くもを越こえて、遠とほくへでかけてゐたのです。
3 ひとりの子供こどもが、赤あかい毛布けつとにくるまつて、しきりにカリメラ・・・・のことを考かんがへながら、大おほきな象ざうの頭あたまのかたちをした、雪丘ゆきをかの裾すそを、せかせかうちの方はうへ急いそいで居をりました。
4 (そら、新聞紙しんぶんがみを尖とがつたかたちに巻まいて、ふうふうと吹ふくと、炭すみからまるで青火あをびが燃もえる。ぼくはカリメラ鍋なべに赤砂糖あかさとうを一ひとつまみ入いれて、それからザラメを一ひとつまみ入いれる。水みづをたして、あとはくつくつくつと煮にるんだ。)ほんたうにもう一生しやうけん命めい、こどもはカリメラ・・・・のことを考かんがへながらうちの方はうへ急いそいでゐました。
5 お日ひさまは、空そらのずうつと遠とほくのすさとほつたつめたいとこで、まばゆい白しろい火ひを、どしどしお焚たきなさいます。
6 その光ひかりはまつすぐに四方しはうに発射はつしやし、下したの方はうに落おちて来きては、ひつそりした台地だいちの雪ゆきを、いちめんまばゆい雪花せつくわ石膏せくかうの板いたにしました。
7 二疋ひきの雪狼ゆきおいのが、べろべろまつ赤かな舌したを吐はきながら、象ざうの頭あたまのかたちをした、雪丘ゆきをかの上うへの方はうをあるいてゐました。こいつらは人ひとの眼めには見みえないのですが、一いつぺん風かぜに狂くるひ出だすと、台地だいちのはづれの雪ゆきの上うへから、すぐぼやぼやの雪雲ゆきぐもをふんで、空そらをかけまはりもするのです。 「しゆ、あんまり行いつていけないつたら。」雪狼ゆきおいののうしろから白熊しろくまの毛皮けがはの三角帽子さんかくばうしをあみだにかぶり、顔かほを苹果りんごのやうにかがやかしながら、雪童子ゆきわらすがゆつくり歩あるいて来きました。
8 雪狼ゆきおいのどもは頭あたまをふつてくるりとまはり、またまつ赤かな舌したを吐はいて走はしりました 「カシオピイア、 もう水仙すゐせんが咲さき出だすぞ おまへのガラスの水車みぐぐるま きつきとまはせ。」雪童子ゆきわらすはまつ青あをなそらを見みあげて見みえない星ほしに叫さけびました。その空そらからは青あをびかりが波なみになつてゆくわくと降ふり、雪狼ゆきおいのどもは、ずうつと遠とほくで焔ほのほのやうに赤あかい舌したをべろべろ吐はいてゐます。 「しゆ、戻もどれつたら、しゆ、」雪童子ゆきわらすがはねあがるやうにして叱しかりましたら、いままで雪ゆきにくつきり落おちてゐた 雪童子ゆきわらすの影法師かげぼうしは、ぎらつと白しろいひかりに変かはり、狼おいのどもは耳みゝをたてゝ一さんに戻もどつてきました。 「アンドロメダ、 あぜみの花はながもう咲さくぞ、 おまへのラムプのアルコホル、 しゆうしゆと噴ふかせ。」 9 雪童子ゆきわらすは、風かぜのやうに象ざうの形かたちの丘をかにのぼりました。雪ゆきには風かぜで介殻かいがらのやうなかたがつき、その項いたゝきには、一本ぽんの大おほきな栗くりの木きが、美うつくしい黄金きんいろのやどりぎのまりをつけて立たつてゐました。 「とつといで。」雪童子ゆきわらすが丘をかのをぼりながら云いひますと、一匹ぴきの雪狼ゆきおいのは、主人しゆじんの小ちいさな歯はのちらつと光ひかるのを見みるや、ごむまりのやうにいきなり木きにはねあがつて、その赤あかい実みのついた小ちいさな枝えだを、がちがち噛かぢりました。木きの上うへでしきりに頸くびをまげてゐる雪狼ゆきおいのの影法師かげばうしは、大おほきく長ながく丘をかの雪ゆきに落おち、枝えだはたうたう青あをい皮かはと、黄きいろの心しんとをちぎられて、いまのぼつてきたばかりの雪童子ゆきわらすの足あしもとに落おちました。 「ありがたう。」雪童子ゆきわらすはそれをひろひながら、白しろと藍あゐいろの野のはらにたつてゐる、美うつくしい町まちをはるかにながめました。川かはがきらきら光ひかつて、停車場ていしやばからは白しろい煙けむりもあがつてゐました。雪童子ゆきわらすは眼めを丘をかのふもとに落おとしました。その山裾やますその細ほそい雪ゆきみちを、さつきの赤毛布あかけつとを着きた子供こどもが、一いつしんに山やまのうちの方はうへ急いそいでゐるのでした。 「あいつは昨日きのふ、木炭すみのそりを押おして行いつた。砂糖さとうを買かつて、じぶんだけ帰かへつてきたな。」雪童子ゆきわらすはわらひながら、手てにもつてゐたやどりぎの杖えだを、ぷいつとこどもになげつけまし森。枝えだはまるで弾丸たまのやうにまつすぐに飛とんで行いつて、たしかに子供こどもの目めの前まへに落おちました。 10 子供こどもはびつくりして枝えだをひろつて、きよろきよろあちこちを見みまはしてゐます。雪童子ゆきわらすはわらつて革かはむちを一ひとつひゆうと鳴ならしました。 11 すると、雲くももなく研みがきあげられたやうな群青ぐんぜうの空そらから、まつ白しろな雪ゆきが、さぎの毛けのやうに、いちめんに落おちてきました。それは下したの平原へいげんの雪ゆきや、ビール色いろの日光につくわう、茶ちやいろのひのきでできあがつた、しづかな奇麗きれいな日曜日にちようびを、一さう美うつくしくしたのです。 12 子こどもは、やどりぎの枝えだをもつて、 一生しやうけん命めいにあるきだしました。 13 けれども、その立派りつぱな雪ゆきが落おち切きつてしまつたころから、お日ひさまはなんだか空そらの遠とほくの方はうへお移うつりになつて、そこのお旅屋たびやで、あのまばゆい白しろい火ひを、あたらしくお焚たきなされてゐるやうでした。 14 そして西北にしきたの方はうからは、少すこし風かぜが吹ふいてきました。 15 もうよほど、そらも冷つめたくなつてきたのです。東ひがしの遠とほくの海うみの方はうでは、空そらの仕掛しかけを外はづしたやうな、ちいさなカタツといふ音おとが聞きこえ、いつかまつしろな鏡かゝみに変かはつてしまつたお日ひさまの面めんを、なかにちいさなものがどんどんよこ切ぎつて行ゆくやうです。 16 雪童子ゆきわらすは革かはむちをわきの下したにはさみ、堅かたく腕うでを組くみ、唇くちびるを結むすんで、その風かぜの吹ふいて来くる方はうをぢつと見みてゐました。狼おいのどもも、まつすぐに首くびをのばして、しきりにそつちを望のぞみました。 17 風かぜはだんだん強つよくなり、足あしもとの雪ゆきは、さらさらさらさらうしろへ流ながれ、間まもなく向むかふの山脈さんみやくの項いたゝきに、ぱつと白しろいけむりのやうなものが立たつたとおもふと、もう西にしの方はうは、すつかり灰はいいろに暗くらくなりました。 18 雪童子ゆきわらすの眼めは、鋭するどく燃もえるやうに光ひかりました。そらはすつかり白しろくなり、風かぜはまるで引ひき裂さくやう、早はやくも乾かはいたこまかな雪ゆきがやつて来きました。そこらはまるで灰はいいろの雪ゆきでいつぱいです。雪ゆきだか雲くもだかもわからないのです。 19 丘をかの稜かどは、もうあつちもこつちも、みんな一度いちどに、軋きしるやうに切きるように鳴なり出だしました。地平線ちへいせんも町まちも、みんな暗くらい煙けむりの向むかふになつてしまひ、雪童子ゆきわらすの白しろい影かげばかり、ぼんやりまつすぐに立たつてゐます。 20 その裂さくやうな吼ほえるやうな風かぜの音おとの中なかから、 「ひゆう、なにをぐづぐづしてゐるの。さあ降ふらすんだよ。降ふらすんだよ。ひゆうひゆうひゆう、ひゆひゆう、降ふらすんだよ、飛とばすんだよ、なにをぐづぐづしてゐるの。こんなに急いそがしいのにさ。ひゆう、ひゆう、向むかふからさへわざと三人連さんにんつれてきたぢやないか。さあ、降ふらすんだよ。ひゆう。」あやしい声こゑがきこえてきました。 21 雪童子ゆきわらすはまるで電気でんきにかかつたやうに飛とびたちました。雪婆ゆきばんごがやつてきたのです。 22 ぱちつ、雪童子ゆきわらすの革かはむちが鳴なりました。狼おいのどもは一ペんにはねあがりました。雪ゆきわらすは顔かほいろも青あをざめ、唇くちびるも結むすばれ、帽子ばうしも飛とんでしまひました。 「ひゆう、ひゆう、さあしつかりやるんだよ。なまけちやいけないよ。ひゆう、ひゆう。さあしつかりやつてお呉くれ。今日けふはここらは水仙月すゐせんづきの四日よつかだよ。さあしつかりさ。ひゆう。」 23 雪婆ゆきばんごの、ぼやぼやつめたい白髪しらがは、雪ゆきと風かぜとのなかで渦うづになりました。どんどんかける黒雲くろくもの間あひだから、その尖とがつた耳みゝと、ぎらぎら光ひかる黄金きんの眼めも見みえます。 24 西にしの方はうの野原のはらから連つれて来こられた三人さんにんの雪童子ゆきわらすも、みんな顔かほいろに血ちの気けもなく、きちつと唇くぢびるを噛かんで、お互たがひ挨拶あひさつさへも交かはさずに、もうつづけざませわしく革かはむちを鳴ならし行いつたり来きたりしました。もうどこが丘をかだか雪ゆきけむりだか空そらだかさへもわからなかつたのです。聞きこえるものは雪婆ゆきばんごのあちこち行つたり来きたりして叫さけぶ声こゑ、お互たがひの革鞭かはむちの音おと、それからいまは雪ゆきの中なかをかけあるく九疋くひきの雪狼ゆきおいのどもの息いきの音おとばかり、そのなかから雪童子ゆきわらすはふと、風かぜにけされて泣ないてゐるさつきの子供こどもの声こゑをききました。 25 雪童子ゆきわらすの瞳ひとみはちよつとおかしく燃もえました。しばらくたちどまつて考かんがへてゐましたがいきなり烈はげしく鞭むちをふつてそつちへ走はしつたのです。 26 けれどもそれは方角はうがくがちがつてゐたらしく雪童子ゆきわらすはずうつと南みなみの方はうの黒くろい松山まつやまにぶつつかりました。雪童子ゆきわらすは革かはむちをわきにはさんで耳みゝをすましました。 「ひゆう、ひゆう、なまけちや承知しやうちしないよ。降ふらすんだよ、降ふらすんだよ。さあ、ひゆう。今日けふは水仙月すゐせんづきの四日よつかだよ。ひゆう、ひゆう、ひゆう、ひゆうひゆう。」 27 そんなはげしい風かぜや雪ゆきの声こゑの間あひだからすきとほるやうな泣声なきごゑがちらつとまた声きこえてきました。雪童子ゆきわらすはまつすぐにそつちへかけて行いきました。雪婆ゆきばんごのふりみだした髪かみが、その顔かほに気きみわるくさわりました。峠たうげの雪ゆきの中なかに、赤あかい毛布けつとをかぶつたさつきの子こが、風かげにかこまれて、もう足あしを雪ゆきから抜ぬけなくなつてよろよろ倒たふれ、雪ゆきに手てをついて、起おきあがらうとして泣ないてゐたのです。 「毛布けつとをかぶつて、うつ向むけになつておいで。毛布けつとをかぶつて、うつむけになつておいで。ひゆう。」雪童子ゆきわらすは走はしりながら叫さけびました。けれどもそれは子こどもにはただ風かぜの声こゑときこえ、そのかたちは眼めに見みえなかつたのです。 「うつむけに倒たふれておいで。ひゆう。動うごいちやいけない。ぢきやむからけつとをかぶつて倒たふれておいで。」雪ゆきわらすはかけ戻もどりながら又また叫さけびました。子こどもはやつぱり起おきあがらうとしてもがいてゐました。 「倒たふれておいで、ひゆう、だまつてうつむけに倒たふれておいで、今日けふはそんなに寒さむくないんだから凍こゞやしない。」 28 雪童子ゆきわらすは、も一いちど走はしり抜ぬけながら叫さけびました。子こどもは口くちをびくびくまげて泣なきながらまた起おきあがらうとしました。 「倒たふれてゐるんだよ。だめだねえ。」雪童子ゆきわらすは向むかふからわざとひどくつきあたつて子こどもを倒たふしました。 「ひゆう、もつとしつかりやつておくれ、なまけちやいけない。さあ、ひゆう」雪婆ゆきばんごがやつてきました。その裂さけたやうに紫むらさきな口くちも尖とがつた歯はもぼんやり見みえました。 「おや、おかしな子こがゐるね、さうさう、こつちへとつておしまひ。水仙月すゐせんづきの四日よつかだもの、一人ひとりや二人ふたりとつたつていゝんだよ。」 「えゝ、さうです。さあ、死しんでしまへ。」雪童子ゆきわらすはわざとひどくぶつつかりながらまたそつと云ひました。 「倒たふれてゐるんだよ。動うごいちやいけない。動うごいちやいけないつたら。」 29 狼おいのどもが気きちがひのやうにかけめぐり、黒くろい足あしは雪雲ゆきぐもの間あひだからちらちらしました。 「さうさう、それでいゝよ。さあ、降ふらしておくれ。なまけちや承知しやうちしないよひゆうひゆうひゆう、ひゆひゆう。」雪婆ゆきばんごは、また向むかふへ飛とんで行きました。 30 子供こどもはまた起おきあがらうとしました。雪童子ゆきわらすは笑わらひながら、も一度いちどひどくつきあたりました。もうそのころは、ぼんやり暗くらくなつて、まだ三時じにもならないに、日ひが暮くれるやうに思おもはれたのです。こどもは力ちからもつきて、もう起おきあがらうとしませんでした。雪童子ゆきわらすは笑わらひながら、手てをのばして、その赤あかい毛布けつとを上うへからすつかりかけてやりました。 「さうして睡ねむつておいで。布団ふとんをたくさんかけてあげるから。さうすれば凍こゞえないんだよ。あしたの朝あさまでカリメラ・・・・の夢ゆめを見みておいで。」 31 雪ゆきわらすは同おなじとこを何なんべんもかけて、雪ゆきをたくさんこどもの上うへにかぶせました。まもなく赤あかい毛布けつとも見みえなくなり、あたりとの高たかさも同おなじになつてしまひました。 「あのこどもは、ぼくのやつたやどりぎをもつてゐた。」雪童子ゆきわらすはつぶやいて、ちよつと泣なくやうにしました。 「さあ、しつかり、今日けふは夜よるの二時にじまでやすみなしだよ。ここらは水仙月すゐせんづきの四日よかなんだから、やすんぢやいけない。さあ、降ふらしておくれ。ひゆう、ひゆうひゆう、ひゆひゆう。」 32 雪婆ゆきばんではまた遠とほくの風かぜの中で叫さけびました。 33 そして、風かぜと雪ゆきと、ばさばさの灰はいのやうな雲くものなかで、ほんたうに日ひに暮くれ雪ゆきは夜よるぢう降ふつて降ふつて降ふつたのです。やつと夜明よあけに近ちかいころ、雪婆ゆきばんごはも一度いちど、南みなみから北きたへまつすぐに馳はせながら云いひました。 「さあ、もうそろそろやすんでいゝよ。あたしはこれからまた海うみの方はうへ行いくからね、だれもついて来こないでいいよ。ゆつくりやすんでこの次つぎの仕度したくをして置おいておくれ。ああまあいいあんばいだつた。水仙月すゐせんづきの四日よつかがうまく済すんで。」 34 その眼めは闇やみのなかでおかしく青あをく光ひかり、ばさばさの髪かみを渦巻うづまかせ口くちをびくびくしながら、東ひがしの方はうへかけて行いきました。 35 野のはらも丘をかもほつとしたやうになつて、雪ゆきは青あをじろくひかりました。空そらもいつかすつかり霽はれて、桔梗ききやういろの天球てんきうには、いちめんの星座せいざがまたたきました 36 雪童子ゆきわらすらは、めいめい自分じぶんの狼おいのをつれて、はじめてお互挨拶たがひあいさつしました。 「ずゐぶんひどかつたね。」 「ああ、」 「こんどはいつ会あふだらう。」 「いつだらうねえ、しかし今年中ことしぢうに、もう二へんぐらゐのもんだらう。」 「早はやくいつしよに北きたへ帰かへりたいね。」 「ああ。」 「さつきこどもがひとり死しんだな。」 「大丈夫だいじやうぶだよ。眠ねむつてるんだ。あしたあすこへぼくしるしをつけておくから。」 「ああ、もう帰かへらう。夜明よあけまでに向むかふへ行いかなくちや。」 「まあいゝだらう。ばくね、どうしてもわからない。あいつはカシオペーアの三みつ星ぼしだらう。みんな青あをい火ひなんだらう。それなのに、どうして火ひがよく燃もえれば、雪ゆきをよこすんだらう。」 「それはね、電気菓子でんきぐわしと同じだよ。そら、ぐるぐるぐるまはつてゐるだらうザラメがみんな、ふわふわのお菓子くわしになるねえ、だから火ひがよく燃もえればいゝんだよ。」 「ああ。」 「ぢや、さよなら。」 「さよなら。」 37 三人にんの雪童子ゆきわらすは、九疋ひきの雪狼ゆきおいのをつれて、西にしの方はうへ帰かへつて行いきました。 38 まもなく東ひがしのそらが黄きばらのやうに光ひかり、琥拍こはくいろにかゞやき、黄金きんに燃もえだしました。丘をかも野原のはらもあたらしい雪ゆきでいつぱいです。 39 雪狼ゆきおいのどもはつかれてぐつたり座すわつてゐます。雪童子ゆきわらすも雪ゆきに座すわつてわらひました。その頬ほゝは林檎りんごのやう、その息いきは百合ゆりのやうにかほりました。 40 ギラギラのお日ひさまがお登のぼりになりました。今朝けさは青味あをみがかつて一いつさう立派りつぱです。日光につくわうは桃もゝいろにいつぱいに流ながれました。雪狼ゆきおいのは起おきあがつて大おほきく口くちをあき、その口くちからは青あをい焔ほのほがゆらゆらと燃もえました。 「さあ、おまへたちはぼくについておいで。夜よがあけたから、あの子こどもを起おこさなけあいけない。」 41 雪童子ゆきわらすは走はしつて、あの昨日きのふの子供こどもの埋うづまつてゐるとこへ行いきました。 「さあ、ここらの雪ゆきをちらしておくれ。」 42 雪狼ゆきおいのどもは、たちまち後足あとあしで、そこらの雪ゆきをけたてました。風かぜがそれをけむりのやうに飛とばしました。 43 かんぢきをはき毛皮けがはを着きた人ひとが、村むらの方はうから急いそいでやつてきました。 「もういゝよ」。雪童子ゆきわらすは子供こどもの赤あかい毛布けつとのはじが、ちらつと雪ゆきから出でたのをみて叫さけびました。 「お父とうさんが来きたよ。もう眼めをおさまし。」雪ゆきわらすはうしろの丘をかにかけあがつて一本ぽんの雪ゆきけむりをたてながら叫さけびました。子こどもはちらつとうごいたやうでした。そして毛皮けがはの人ひとは一生しやうけん命めい走はしつてきました。 ■このファイルについて 標題:水仙月の四日 著者:宮澤賢治 本文:「注文の多い料理店」 新選 名著復刻全集 近代文学館 昭和51年4月1日 発行 (第14刷) 表記:原文の表記を尊重しつつ、Webでの読みやすさを考慮して、以下のように扱います。 ○誤字・脱字等と思われる箇所は訂正せず、底本通りとしました。 ○本文のかなづかいは、底本通りとしました。 ○旧字体は、現行の新字体に替えました。だだし、新字体に替えなかった漢字もあります。新字体がない場合は、旧字体をそのまま用いました。 ○段落番号を追加しました。 ○行間処理(行間200%)を行いました。 入力:今井安貴夫 ファイル作成:里実工房 公開:里実文庫 2005年10月30日
9 雪童子ゆきわらすは、風かぜのやうに象ざうの形かたちの丘をかにのぼりました。雪ゆきには風かぜで介殻かいがらのやうなかたがつき、その項いたゝきには、一本ぽんの大おほきな栗くりの木きが、美うつくしい黄金きんいろのやどりぎのまりをつけて立たつてゐました。 「とつといで。」雪童子ゆきわらすが丘をかのをぼりながら云いひますと、一匹ぴきの雪狼ゆきおいのは、主人しゆじんの小ちいさな歯はのちらつと光ひかるのを見みるや、ごむまりのやうにいきなり木きにはねあがつて、その赤あかい実みのついた小ちいさな枝えだを、がちがち噛かぢりました。木きの上うへでしきりに頸くびをまげてゐる雪狼ゆきおいのの影法師かげばうしは、大おほきく長ながく丘をかの雪ゆきに落おち、枝えだはたうたう青あをい皮かはと、黄きいろの心しんとをちぎられて、いまのぼつてきたばかりの雪童子ゆきわらすの足あしもとに落おちました。 「ありがたう。」雪童子ゆきわらすはそれをひろひながら、白しろと藍あゐいろの野のはらにたつてゐる、美うつくしい町まちをはるかにながめました。川かはがきらきら光ひかつて、停車場ていしやばからは白しろい煙けむりもあがつてゐました。雪童子ゆきわらすは眼めを丘をかのふもとに落おとしました。その山裾やますその細ほそい雪ゆきみちを、さつきの赤毛布あかけつとを着きた子供こどもが、一いつしんに山やまのうちの方はうへ急いそいでゐるのでした。 「あいつは昨日きのふ、木炭すみのそりを押おして行いつた。砂糖さとうを買かつて、じぶんだけ帰かへつてきたな。」雪童子ゆきわらすはわらひながら、手てにもつてゐたやどりぎの杖えだを、ぷいつとこどもになげつけまし森。枝えだはまるで弾丸たまのやうにまつすぐに飛とんで行いつて、たしかに子供こどもの目めの前まへに落おちました。
10 子供こどもはびつくりして枝えだをひろつて、きよろきよろあちこちを見みまはしてゐます。雪童子ゆきわらすはわらつて革かはむちを一ひとつひゆうと鳴ならしました。
11 すると、雲くももなく研みがきあげられたやうな群青ぐんぜうの空そらから、まつ白しろな雪ゆきが、さぎの毛けのやうに、いちめんに落おちてきました。それは下したの平原へいげんの雪ゆきや、ビール色いろの日光につくわう、茶ちやいろのひのきでできあがつた、しづかな奇麗きれいな日曜日にちようびを、一さう美うつくしくしたのです。
12 子こどもは、やどりぎの枝えだをもつて、 一生しやうけん命めいにあるきだしました。
13 けれども、その立派りつぱな雪ゆきが落おち切きつてしまつたころから、お日ひさまはなんだか空そらの遠とほくの方はうへお移うつりになつて、そこのお旅屋たびやで、あのまばゆい白しろい火ひを、あたらしくお焚たきなされてゐるやうでした。
14 そして西北にしきたの方はうからは、少すこし風かぜが吹ふいてきました。
15 もうよほど、そらも冷つめたくなつてきたのです。東ひがしの遠とほくの海うみの方はうでは、空そらの仕掛しかけを外はづしたやうな、ちいさなカタツといふ音おとが聞きこえ、いつかまつしろな鏡かゝみに変かはつてしまつたお日ひさまの面めんを、なかにちいさなものがどんどんよこ切ぎつて行ゆくやうです。
16 雪童子ゆきわらすは革かはむちをわきの下したにはさみ、堅かたく腕うでを組くみ、唇くちびるを結むすんで、その風かぜの吹ふいて来くる方はうをぢつと見みてゐました。狼おいのどもも、まつすぐに首くびをのばして、しきりにそつちを望のぞみました。
17 風かぜはだんだん強つよくなり、足あしもとの雪ゆきは、さらさらさらさらうしろへ流ながれ、間まもなく向むかふの山脈さんみやくの項いたゝきに、ぱつと白しろいけむりのやうなものが立たつたとおもふと、もう西にしの方はうは、すつかり灰はいいろに暗くらくなりました。
18 雪童子ゆきわらすの眼めは、鋭するどく燃もえるやうに光ひかりました。そらはすつかり白しろくなり、風かぜはまるで引ひき裂さくやう、早はやくも乾かはいたこまかな雪ゆきがやつて来きました。そこらはまるで灰はいいろの雪ゆきでいつぱいです。雪ゆきだか雲くもだかもわからないのです。
19 丘をかの稜かどは、もうあつちもこつちも、みんな一度いちどに、軋きしるやうに切きるように鳴なり出だしました。地平線ちへいせんも町まちも、みんな暗くらい煙けむりの向むかふになつてしまひ、雪童子ゆきわらすの白しろい影かげばかり、ぼんやりまつすぐに立たつてゐます。
20 その裂さくやうな吼ほえるやうな風かぜの音おとの中なかから、 「ひゆう、なにをぐづぐづしてゐるの。さあ降ふらすんだよ。降ふらすんだよ。ひゆうひゆうひゆう、ひゆひゆう、降ふらすんだよ、飛とばすんだよ、なにをぐづぐづしてゐるの。こんなに急いそがしいのにさ。ひゆう、ひゆう、向むかふからさへわざと三人連さんにんつれてきたぢやないか。さあ、降ふらすんだよ。ひゆう。」あやしい声こゑがきこえてきました。
21 雪童子ゆきわらすはまるで電気でんきにかかつたやうに飛とびたちました。雪婆ゆきばんごがやつてきたのです。
22 ぱちつ、雪童子ゆきわらすの革かはむちが鳴なりました。狼おいのどもは一ペんにはねあがりました。雪ゆきわらすは顔かほいろも青あをざめ、唇くちびるも結むすばれ、帽子ばうしも飛とんでしまひました。 「ひゆう、ひゆう、さあしつかりやるんだよ。なまけちやいけないよ。ひゆう、ひゆう。さあしつかりやつてお呉くれ。今日けふはここらは水仙月すゐせんづきの四日よつかだよ。さあしつかりさ。ひゆう。」
23 雪婆ゆきばんごの、ぼやぼやつめたい白髪しらがは、雪ゆきと風かぜとのなかで渦うづになりました。どんどんかける黒雲くろくもの間あひだから、その尖とがつた耳みゝと、ぎらぎら光ひかる黄金きんの眼めも見みえます。
24 西にしの方はうの野原のはらから連つれて来こられた三人さんにんの雪童子ゆきわらすも、みんな顔かほいろに血ちの気けもなく、きちつと唇くぢびるを噛かんで、お互たがひ挨拶あひさつさへも交かはさずに、もうつづけざませわしく革かはむちを鳴ならし行いつたり来きたりしました。もうどこが丘をかだか雪ゆきけむりだか空そらだかさへもわからなかつたのです。聞きこえるものは雪婆ゆきばんごのあちこち行つたり来きたりして叫さけぶ声こゑ、お互たがひの革鞭かはむちの音おと、それからいまは雪ゆきの中なかをかけあるく九疋くひきの雪狼ゆきおいのどもの息いきの音おとばかり、そのなかから雪童子ゆきわらすはふと、風かぜにけされて泣ないてゐるさつきの子供こどもの声こゑをききました。
25 雪童子ゆきわらすの瞳ひとみはちよつとおかしく燃もえました。しばらくたちどまつて考かんがへてゐましたがいきなり烈はげしく鞭むちをふつてそつちへ走はしつたのです。
26 けれどもそれは方角はうがくがちがつてゐたらしく雪童子ゆきわらすはずうつと南みなみの方はうの黒くろい松山まつやまにぶつつかりました。雪童子ゆきわらすは革かはむちをわきにはさんで耳みゝをすましました。 「ひゆう、ひゆう、なまけちや承知しやうちしないよ。降ふらすんだよ、降ふらすんだよ。さあ、ひゆう。今日けふは水仙月すゐせんづきの四日よつかだよ。ひゆう、ひゆう、ひゆう、ひゆうひゆう。」
27 そんなはげしい風かぜや雪ゆきの声こゑの間あひだからすきとほるやうな泣声なきごゑがちらつとまた声きこえてきました。雪童子ゆきわらすはまつすぐにそつちへかけて行いきました。雪婆ゆきばんごのふりみだした髪かみが、その顔かほに気きみわるくさわりました。峠たうげの雪ゆきの中なかに、赤あかい毛布けつとをかぶつたさつきの子こが、風かげにかこまれて、もう足あしを雪ゆきから抜ぬけなくなつてよろよろ倒たふれ、雪ゆきに手てをついて、起おきあがらうとして泣ないてゐたのです。 「毛布けつとをかぶつて、うつ向むけになつておいで。毛布けつとをかぶつて、うつむけになつておいで。ひゆう。」雪童子ゆきわらすは走はしりながら叫さけびました。けれどもそれは子こどもにはただ風かぜの声こゑときこえ、そのかたちは眼めに見みえなかつたのです。 「うつむけに倒たふれておいで。ひゆう。動うごいちやいけない。ぢきやむからけつとをかぶつて倒たふれておいで。」雪ゆきわらすはかけ戻もどりながら又また叫さけびました。子こどもはやつぱり起おきあがらうとしてもがいてゐました。 「倒たふれておいで、ひゆう、だまつてうつむけに倒たふれておいで、今日けふはそんなに寒さむくないんだから凍こゞやしない。」
28 雪童子ゆきわらすは、も一いちど走はしり抜ぬけながら叫さけびました。子こどもは口くちをびくびくまげて泣なきながらまた起おきあがらうとしました。 「倒たふれてゐるんだよ。だめだねえ。」雪童子ゆきわらすは向むかふからわざとひどくつきあたつて子こどもを倒たふしました。 「ひゆう、もつとしつかりやつておくれ、なまけちやいけない。さあ、ひゆう」雪婆ゆきばんごがやつてきました。その裂さけたやうに紫むらさきな口くちも尖とがつた歯はもぼんやり見みえました。 「おや、おかしな子こがゐるね、さうさう、こつちへとつておしまひ。水仙月すゐせんづきの四日よつかだもの、一人ひとりや二人ふたりとつたつていゝんだよ。」 「えゝ、さうです。さあ、死しんでしまへ。」雪童子ゆきわらすはわざとひどくぶつつかりながらまたそつと云ひました。 「倒たふれてゐるんだよ。動うごいちやいけない。動うごいちやいけないつたら。」
29 狼おいのどもが気きちがひのやうにかけめぐり、黒くろい足あしは雪雲ゆきぐもの間あひだからちらちらしました。 「さうさう、それでいゝよ。さあ、降ふらしておくれ。なまけちや承知しやうちしないよひゆうひゆうひゆう、ひゆひゆう。」雪婆ゆきばんごは、また向むかふへ飛とんで行きました。
30 子供こどもはまた起おきあがらうとしました。雪童子ゆきわらすは笑わらひながら、も一度いちどひどくつきあたりました。もうそのころは、ぼんやり暗くらくなつて、まだ三時じにもならないに、日ひが暮くれるやうに思おもはれたのです。こどもは力ちからもつきて、もう起おきあがらうとしませんでした。雪童子ゆきわらすは笑わらひながら、手てをのばして、その赤あかい毛布けつとを上うへからすつかりかけてやりました。 「さうして睡ねむつておいで。布団ふとんをたくさんかけてあげるから。さうすれば凍こゞえないんだよ。あしたの朝あさまでカリメラ・・・・の夢ゆめを見みておいで。」
31 雪ゆきわらすは同おなじとこを何なんべんもかけて、雪ゆきをたくさんこどもの上うへにかぶせました。まもなく赤あかい毛布けつとも見みえなくなり、あたりとの高たかさも同おなじになつてしまひました。 「あのこどもは、ぼくのやつたやどりぎをもつてゐた。」雪童子ゆきわらすはつぶやいて、ちよつと泣なくやうにしました。 「さあ、しつかり、今日けふは夜よるの二時にじまでやすみなしだよ。ここらは水仙月すゐせんづきの四日よかなんだから、やすんぢやいけない。さあ、降ふらしておくれ。ひゆう、ひゆうひゆう、ひゆひゆう。」
32 雪婆ゆきばんではまた遠とほくの風かぜの中で叫さけびました。
33 そして、風かぜと雪ゆきと、ばさばさの灰はいのやうな雲くものなかで、ほんたうに日ひに暮くれ雪ゆきは夜よるぢう降ふつて降ふつて降ふつたのです。やつと夜明よあけに近ちかいころ、雪婆ゆきばんごはも一度いちど、南みなみから北きたへまつすぐに馳はせながら云いひました。 「さあ、もうそろそろやすんでいゝよ。あたしはこれからまた海うみの方はうへ行いくからね、だれもついて来こないでいいよ。ゆつくりやすんでこの次つぎの仕度したくをして置おいておくれ。ああまあいいあんばいだつた。水仙月すゐせんづきの四日よつかがうまく済すんで。」
34 その眼めは闇やみのなかでおかしく青あをく光ひかり、ばさばさの髪かみを渦巻うづまかせ口くちをびくびくしながら、東ひがしの方はうへかけて行いきました。
35 野のはらも丘をかもほつとしたやうになつて、雪ゆきは青あをじろくひかりました。空そらもいつかすつかり霽はれて、桔梗ききやういろの天球てんきうには、いちめんの星座せいざがまたたきました
36 雪童子ゆきわらすらは、めいめい自分じぶんの狼おいのをつれて、はじめてお互挨拶たがひあいさつしました。 「ずゐぶんひどかつたね。」 「ああ、」 「こんどはいつ会あふだらう。」 「いつだらうねえ、しかし今年中ことしぢうに、もう二へんぐらゐのもんだらう。」 「早はやくいつしよに北きたへ帰かへりたいね。」 「ああ。」 「さつきこどもがひとり死しんだな。」 「大丈夫だいじやうぶだよ。眠ねむつてるんだ。あしたあすこへぼくしるしをつけておくから。」 「ああ、もう帰かへらう。夜明よあけまでに向むかふへ行いかなくちや。」 「まあいゝだらう。ばくね、どうしてもわからない。あいつはカシオペーアの三みつ星ぼしだらう。みんな青あをい火ひなんだらう。それなのに、どうして火ひがよく燃もえれば、雪ゆきをよこすんだらう。」 「それはね、電気菓子でんきぐわしと同じだよ。そら、ぐるぐるぐるまはつてゐるだらうザラメがみんな、ふわふわのお菓子くわしになるねえ、だから火ひがよく燃もえればいゝんだよ。」 「ああ。」 「ぢや、さよなら。」 「さよなら。」
37 三人にんの雪童子ゆきわらすは、九疋ひきの雪狼ゆきおいのをつれて、西にしの方はうへ帰かへつて行いきました。
38 まもなく東ひがしのそらが黄きばらのやうに光ひかり、琥拍こはくいろにかゞやき、黄金きんに燃もえだしました。丘をかも野原のはらもあたらしい雪ゆきでいつぱいです。
39 雪狼ゆきおいのどもはつかれてぐつたり座すわつてゐます。雪童子ゆきわらすも雪ゆきに座すわつてわらひました。その頬ほゝは林檎りんごのやう、その息いきは百合ゆりのやうにかほりました。
40 ギラギラのお日ひさまがお登のぼりになりました。今朝けさは青味あをみがかつて一いつさう立派りつぱです。日光につくわうは桃もゝいろにいつぱいに流ながれました。雪狼ゆきおいのは起おきあがつて大おほきく口くちをあき、その口くちからは青あをい焔ほのほがゆらゆらと燃もえました。 「さあ、おまへたちはぼくについておいで。夜よがあけたから、あの子こどもを起おこさなけあいけない。」
41 雪童子ゆきわらすは走はしつて、あの昨日きのふの子供こどもの埋うづまつてゐるとこへ行いきました。 「さあ、ここらの雪ゆきをちらしておくれ。」
42 雪狼ゆきおいのどもは、たちまち後足あとあしで、そこらの雪ゆきをけたてました。風かぜがそれをけむりのやうに飛とばしました。
43 かんぢきをはき毛皮けがはを着きた人ひとが、村むらの方はうから急いそいでやつてきました。 「もういゝよ」。雪童子ゆきわらすは子供こどもの赤あかい毛布けつとのはじが、ちらつと雪ゆきから出でたのをみて叫さけびました。 「お父とうさんが来きたよ。もう眼めをおさまし。」雪ゆきわらすはうしろの丘をかにかけあがつて一本ぽんの雪ゆきけむりをたてながら叫さけびました。子こどもはちらつとうごいたやうでした。そして毛皮けがはの人ひとは一生しやうけん命めい走はしつてきました。
■このファイルについて 標題:水仙月の四日 著者:宮澤賢治 本文:「注文の多い料理店」 新選 名著復刻全集 近代文学館 昭和51年4月1日 発行 (第14刷) 表記:原文の表記を尊重しつつ、Webでの読みやすさを考慮して、以下のように扱います。
○誤字・脱字等と思われる箇所は訂正せず、底本通りとしました。 ○本文のかなづかいは、底本通りとしました。 ○旧字体は、現行の新字体に替えました。だだし、新字体に替えなかった漢字もあります。新字体がない場合は、旧字体をそのまま用いました。 ○段落番号を追加しました。 ○行間処理(行間200%)を行いました。
入力:今井安貴夫 ファイル作成:里実工房 公開:里実文庫 2005年10月30日