徒然草
 

■第二百三十五段

ぬしある家には、すゞろなる人、心のまゝに入りることなし。主なき所には、道行人濫みちゆきびとみだりに立ち入り、狐・梟ふくろふやうの物も、人気ひとげかれねば、所得顔ところえがほり棲 み、木霊こたまなど云ふ、けしからぬ形もあらはるゝものなり。

また、かがみには、いろ・像かたちなき故に、万の影来かげきた りて映る。鏡に色・像あらましかば、映らざらまし。

虚空こくうよく物を。我等われらが心に念々ねんねんのほしきまゝに来りうかぶも、心といふもののなきにやあらん。心にぬしあらましかば、胸のうちに、若干そこばくのことは入り来らざらまし。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月