徒然草
人の、物を問ひたるに、知らずしもあらじ、ありのまゝに言はんはをこがましとにや、心惑はすやうに返ことしたる、よからぬことなり。知りたることも、なほさだかにと思ひてや問ふらん。また、まことに知らぬ人も、などかなからん。うらゝかに言ひ聞かせたらんは、おとなしく聞えなまし。
人は未だ聞き及ばぬことを、我が知りたるまゝに、「さても、その人のことのあさましさ」などばかり言ひ遣りたれば、「如何なることのあるにか」と、押し返し問ひに遣るこそ、心づきなけれ。世に古りぬることをも、おのづから聞き洩すあたりもあれば、おぼつかなからぬやうに告げ遣りたらん、悪しかるべきことかは。
かやうのことは、物馴れぬ人のあることなり。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
ルビ付きHTMLファイルに変換
ルビをカタカナからひらがなに変更
行間処理(行間180%)
段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月