徒然草
すべて、人は、無智・無能なるべきものなり。或 人の子の、見ざまなど悪しからぬが、父の前にて、人と物言ふとて、史書の文を引きたりし、賢しくは聞えしかども、尊者の前にてはさらずともと覚えしなり。また、或人の許にて、琵琶法師の物語を聞かんとて琵琶を召し寄せたるに、柱 の一つ落ちたりしかば、「作りて附けよ」と言ふに、ある男の中 に、悪しからずと見ゆるが、「古き柄杓の柄ありや」など言ふを見れば、爪を生ふしたり。琵琶など弾くにこそ。盲法師の琵琶、その沙汰にも及ばぬことなり。道に心得たる由にやと、かたはらいたかりき。「柄杓の柄は、檜物木とかやいひて、よからぬ物に」とぞ或人仰せられし。
若き人は、少しのことも、よく見え、わろく見ゆるなり。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
ルビ付きHTMLファイルに変換
ルビをカタカナからひらがなに変更
行間処理(行間180%)
段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月