徒然草
後鳥羽院の御時、信濃前司行長、稽古の誉ありけるが、楽府の御論議の番に召されて、七徳の舞を二つ忘れたりければ、五徳の冠者と異名を附きにけるを、心憂きことにして、学問を捨てて遁世したりけるを、慈鎮和尚、一芸ある者をば、下部までも召し置きて、不便にせさせ給ひければ、この信濃入道を扶持し給ひけり。
この行長入道、平家物語を作りて、生仏
といひける盲目に教へて語らせけり。さて、山門のことを殊にゆゝしく書けり。九郎判官のことは委しく知りて書き載せたり。蒲冠者のことはよく知らざりけるにや、多くのことどもを記し洩らせり。武士のこと、弓馬の業は、生仏、東国の者にて、武士に問ひ聞きて書かせけり。かの生仏が生
れつきの声を、今の琵琶法師は学びたるなり。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
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段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月