徒然草
 

■第二百七段

亀山殿かめやまどの建てられんとて地を引かれけるに、大きなるくちなは、数も知らずり集りたる塚ありけり。「この所の神なり」と言ひて、ことのよしを申しければ、「いかゞあるべき」と勅問ちよくもんありけるに、「古くよりこの地をめたる物ならば、さうなく掘り捨てられ難し」と皆人みなひと申されけるに、この大臣おとど、一人、「王土わうどにをらん虫、皇居くわうきよを建てられんに、何のたたりをかなすべき。鬼神きしんはよこしまなし。咎とがむべからず。たゞ、皆掘り捨つべし」と申されたりければ、塚をくづして、蛇をば大井河に流してんげり。

さらに祟りなかりけり。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月