徒然草
「夜に入りて、物の映えなし」といふ人、いと口をし。万のものの綺羅・飾り・色ふしも、夜のみこそめでたけれ。昼は、ことそぎ、およすけたる姿にてもありなん。夜は、きらゝかに、花やかなる装束、いとよし。人の気色も、夜の火影ぞ、よきはよく、物言ひたる声も、暗くて聞きたる、用意ある、心にくし。匂ひも、ものの音も、たゞ、夜ぞひときはめでたき。
さして殊なることなき夜、うち更けて参れる人の、清げなるさましたる、いとよし。若きどち、心止めて見る人は、時をも分かぬものならば、殊に、うち解けぬべき折節ぞ、褻・晴なくひきつくろはまほしき。よき男の、日暮れてゆするし、女も、夜更くる程に、すべりつゝ、鏡取りて、顔などつくろひて出づるこそ、をかしけれ。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
ルビ付きHTMLファイルに変換
ルビをカタカナからひらがなに変更
行間処理(行間180%)
段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月