徒然草
 

■第百九十一段

「夜に入りて、物のえなし」といふ人、いと口をし。万のものの綺羅きら・飾かざり・色ふしも、よるのみこそめでたけれ。昼は、ことそぎ、およすけたる姿すがたにてもありなん。夜は、きらゝかに、花やかなる装束しやうぞく、いとよし。人の気色けしきも、夜の火影ほかげぞ、よきはよく、物言ひたる声も、暗くて聞きたる、用意ある、心にくし。匂にほひも、もののも、たゞ、夜ぞひときはめでたき。

さしてことなることなき夜、うちけて参れる人の、清げなるさましたる、いとよし。若きどち、心止とどめて見る人は、時をもかぬものならば、殊に、うちけぬべき折節をりふしぞ、・晴はれなくひきつくろはまほしき。よきをとこの、日暮れてゆするし、をんなも、夜更くる程に、すべりつゝ、かがみ取りて、顔などつくろひて出づるこそ、をかしけれ。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月