徒然草
 

■第百九十段

といふものこそ、をのこの持つまじきものなれ。「いつもひとみにて」など聞くこそ、心にくけれ、「誰たれがしが婿むこに成りぬ」とも、また、「如何なるをんなを取り据ゑて、あひ住む」など聞きつれば、無下むげに心劣りせらるゝわざなり。殊ことなることなき女をよしと思ひ定めてこそひゐたらめと、いやしくもはか られ、よき女ならば、らうたくしてぞ、あがほとけと守りゐたらむ。たとへば、さばかりにこそと覚えぬべし。まして、家のうちおこなひ治めたる女、いと口惜くちをし。子などで来て、かしづき愛したる、心憂し。男なくなりて後、あまになりて年寄りたるありさま、き跡まであさまし。

いかなる女なりとも、明暮添あけくれそひ見んには、いと心づきなく、 にくかりなん。女のためも、半空なかぞらにこそならめ。よそながら時々通ひまんこそ、年月経ても絶えぬ仲らひともならめ。あからさまに来て、とまなどせんは、珍らしかりぬべし。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月