徒然草
 

■第百八十九段

今日けふはそのことをなさんと思へど、あらぬ急ぎづ出で来てまぎ れ暮し、待つ人はさはりありて、頼めぬ人は来たり。頼みたる方のことは違 たがひて、思ひ寄らぬ道ばかりはかなひぬ。煩わづらはしかりつることはことなくて、やすかるべきことはいと心苦し。日々ひびに過ぎ行くさま、かねて思ひつるには似ず。一年ひととせうちもかくの如し。一生のあひだもしかなり。

かねてのあらまし、皆違ひ行くかと思ふに、おのづから、違はぬこともあれば、いよいよ、物は定め難し。不定ふしやうと心得ぬるのみ、まこと にて違はず。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月