徒然草
若き時は、血気内に余り、心物に動きて、情欲 多し。身を危めて、砕け易きこと、珠を走らしむるに似たり。美麗を好みて宝を費し、これを捨てて苔の袂に窶れ、勇める心盛りにして、物と争ひ、心に恥 ぢ羨み、好む所日々に定まらず、色に耽り、情 にめで、行ひを潔くして、百年の身を誤り、命を失へる例願はしくして、身の全く、久しからんことをば思はず、好ける方に心ひきて、永き世語りともなる。身を誤つことは、若き時のしわざなり。
老いぬる人は、精神衰へ、淡く疎かにして、感じ動く所なし。心自ら静かなれば、無益のわざを為さず、身を助けて愁なく、人の煩ひなからんことを思ふ。老いて、智の、若きにまされること、若くして、かたちの、老いたるにまされるが如し。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
ルビ付きHTMLファイルに変換
ルビをカタカナからひらがなに変更
行間処理(行間180%)
段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月