徒然草
 

■第百五十段

のうをつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。うちうちよく習ひて、さし出でたらんこそ、いと心にくからめ」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸いちげいも習ひることなし。

いま堅固けんごかたほなるより、上手じやうずの中に交りて、 そしり笑はるゝにもぢず、つれなく過ぎてたしなむ人、天性てんぜい、そのこつなけれども、みちになづまず、みだりにせずして、年を送れば、堪能かんのうの嗜まざるよりは、つひに上手のくらヰに至り、徳たけ、人に許されて、ならびなき名をることなり。

天下てんかのものの上手といへども、始めは、不堪ふかんきこえもあり、無下むげ瑕瑾かきんもありき。されども、その人、道の掟正 おきてただしく、これを重くして、放埒はうらつせざれば、世の博士はかせにて、万人ばんにんの師となること、諸道変しよだうかはるべからず。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月