徒然草
　

■第百三十六段

医師篤成くすしあつしげ、故法皇こほふわうの御前ごぜんに候ひて、供御ぐごの参りけるに、「今参り侍る供御の色々を、文字もんじも功能 くのうも尋ね下されて、そらに申し侍らば、本草ほんざうに御覧ごらん じ合はせられ侍れかし。一つも申し誤り侍らじ」と申しける時しも、六条故内府ろくでうのこだいふ参り給ひて、「有房ありふさ、ついでに物もの習ひ侍らん」とて、「先づ、『しほ』といふ文字は、いづれの偏へんにか侍らん」と問はれたりけるに、「土偏どへんに候ふ」と申したりければ、「才 ざえの程ほど、既にあらはれにたり。今はさばかりにて候へ。ゆかしき所なし」と申されけるに、どよみに成りて、罷まかり出でにけり。

徒然草 下

松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がＨＴＭＬ化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
　　ルビ付きＨＴＭＬファイルに変換
　　ルビをカタカナからひらがなに変更
　　行間処理（行間１８０％）
　　段落処理（形式段落ごとに＜Ｐ＞タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更）
変更作業：里実福太朗
変更終了：平成１３年１０月