徒然草
 

■第百三十五段

資季すけすヱの大納言入道とかやきこえける人、具氏宰相中将ともうぢさいしやうちゆうじやうにあひて、「わぬしの問はれんほどのこと、何こと なにごとなりとも答へ申さざらんや」と言はれければ、具氏、「いかゞ侍らん」と申されけるを、「さらば、あらがひ給へ」と言はれて、「はかばかしきことは、片端かたはしまねび知り侍らねば、尋ね申すまでもなし。何となきそゞろごとの中に、おぼつかなきことをこそ問ひたてまつらめ」と申されけり。「まして、こゝもとのあさきことは、何ことなりともあきらめ申さん」と言はれければ、近習きんじゆの人々、女房なども、「興きやうあるあらがひなり。同じくは、御前ごぜんにて争はるべし。負けたらん人は、供御ぐごをまうけらるべし」と定めて、御前にて召し合はせられたりけるに、具氏、「幼をさなくより聞き習ひ侍れど、その心知らぬこと侍り。『むまのきつりやう、きつにのをか、なかくぼれいり、くれんどう』と申すことは、如何 いかなる心にか侍らん。承うけたまはらん」と申されけるに、大納言入道、はたとつまりて、「これはそゞろごとなれば、言ふにもらず」と言はれけるを、「本もとより深き道は知り侍らず。そゞろごとを尋ねたてまつらんと定め申しつ」と申されければ、大納言入道、まけになりて、所課しよくわいかめしくせられたりけるとぞ。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
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  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月