徒然草
資季大納言入道とかや聞えける人、具氏宰相中将にあひて、「わぬしの問はれんほどのこと、何ことなりとも答へ申さざらんや」と言はれければ、具氏、「いかゞ侍らん」と申されけるを、「さらば、あらがひ給へ」と言はれて、「はかばかしきことは、片端も学び知り侍らねば、尋ね申すまでもなし。何となきそゞろごとの中に、おぼつかなきことをこそ問ひ奉らめ」と申されけり。「まして、こゝもとの浅きことは、何ことなりとも明らめ申さん」と言はれければ、近習の人々、女房なども、「興あるあらがひなり。同じくは、御前にて争はるべし。負けたらん人は、供御をまうけらるべし」と定めて、御前にて召し合はせられたりけるに、具氏、「幼くより聞き習ひ侍れど、その心知らぬこと侍り。『むまのきつりやう、きつにのをか、なかくぼれいり、くれんどう』と申すことは、如何
なる心にか侍らん。承らん」と申されけるに、大納言入道、はたと詰りて、「これはそゞろごとなれば、言ふにも足らず」と言はれけるを、「本より深き道は知り侍らず。そゞろごとを尋ね奉らんと定め申しつ」と申されければ、大納言入道、負になりて、所課いかめしくせられたりけるとぞ。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
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変更終了:平成13年10月