徒然草
 

■第九十八段

たふときひじりの言ひ置きけることを書き付けて、一言芳談いちごんはうだんとかや名づけたる草子さうしを見侍りしに、心に合ひて覚えしことども。

一 しやせまし、せずやあらましと思ふことは、おほやうは、せぬはよきなり。

一 後世ごせを思はん者は、糂汰瓶じんだがめ一つも持つまじきことなり。持経ぢきやう・本尊ほんぞんに至るまで、よき物を持つ、よしなきことなり。

一 遁世者とんぜいじやは、なきにことかけぬやうをはからひて過ぐる、最上のやうにてあるなり。

一 上臈じやうらふ下臈げらふに成り、智者ちしや愚者ぐしやに成り、徳人とくにんひんに成り、能ある人は無能に成るべきなり。

一 仏道を願ふといふは、別のことなし。暇いとまある身になりて、世のことを心にかけぬ

を、第一の道とす。

この外もありしことども、覚えず。










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変更終了:平成13年10月