徒然草
赤舌日といふこと、陰陽道には沙汰なきことなり。昔の人、これを忌まず。この比、何者の言ひ出でて忌み始めけるにか、この日あること、末とほらずと言ひて、その日言ひたりしこと、したりしことかなはず、得たりし物は失ひつ、企てたりしこと成らずといふ、愚かなり。吉日を撰びてなしたるわざの末とほらぬを数へて見んも、また等しかるべし。
その故は、無常変易の境、ありと見るものも存ぜず。始めあることも終りなし。志は遂げず。望みは絶えず。人の心不定なり。物皆幻化なり。何ことか暫くも住する。この理を知らざるなり。「吉日に悪をなすに、必ず凶なり。悪日に善を行ふに、必ず吉なり」と言へり。吉凶は、人によりて、日によらず。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
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変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月