徒然草
つれづれわぶる人は、いかなる心ならん。まぎるゝ方なく、たゞひとりあるのみこそよけれ。
世に従へば、心、外の塵に奪はれて惑ひ易く、人に交れば、言葉、よその聞きに随ひて、さながら、心にあらず。人に戯れ、物に争ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。そのこと、定まれることなし。分別みだりに起りて、得失止む時なし。惑ひの上に酔 へり。酔ひの中に夢をなす。走りて急がはしく、ほれて忘れたること、人皆かくの如し。
未だ、まことの道を知らずとも、縁を離れて身を閑かにし、ことにあづからずして心を安くせんこそ、しばらく楽しぶとも言ひつべけれ。「生活・人こと・伎能・学問等の諸縁を止めよ」とこそ、摩訶止観にも侍れ。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
ルビ付きHTMLファイルに変換
ルビをカタカナからひらがなに変更
行間処理(行間180%)
段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月