徒然草
 

■第七十四段

ありの如くに集まりて、東西に急ぎ、南北にわしる人、高きあり、いやしきあり。老いたるあり、若きあり。行く所あり、帰る家あり。夕 ゆふべねて、あしたに起く。いとなむ所何ことぞや。生をむさぼりり、利を求めて、止む時なし。

身を養ひて、何ことをか待つ。期するところ、たゞ、老と死とにあり。その来ること速かにして、念々ねんねんの間に止まらず。これを待つ間、何の楽しびかあらん。惑へる者は、これを恐れず。名利みやうりおぼれて、先途せんどの近きことを顧みねばなり。愚かなる人は、また、これを悲しぶ。常住じやうぢゆうならんことを思ひて、変化へんげことはりを知らねばなり。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月