徒然草
 

■第七十一段

名を聞くより、やがて、面影おもかげはからるゝ心地ここちするを、見る時は、また、かねて思ひつるまゝの顔したる人こそなけれ、昔物語むかしものがたりを聞きても、このごろの人の家のそこほどにてぞありけんと覚え、人も、今見る人の中に思ひよそへらるゝは、誰もかく覚ゆるにや。

また、如何なる折ぞ、たゞ今、人の言ふことも、目に見ゆる物も、我が心の うちに、かゝることのいつぞやありしかと覚えて、いつとは思ひ出でねども、まさしくありし心地のするは、我ばかりかく思ふにや。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月