徒然草
 

■第六十九段

書写しよしや上人しやうにん、法華読誦ほつけどくじゆこう 積りて、六根浄ろくこんじやうにかなへる人なりけり。旅の仮屋かりやに立ち入られけるに、豆の殻をきて豆を煮ける音のつぶつぶと鳴るを聞き給ひければ、「疎うとからぬ己れらしも、恨めしく、我をば煮て、から き目を見するものかな」と言ひけり。焚かるゝ豆殻のばらばらと鳴る音は、「我が心よりすることかは。焼かるゝはいかばかり堪へ難けれども、力なきことなり。かくな恨み給ひそ」とぞ聞えける。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月