徒然草
 

■第六十八段

筑紫つくしに、なにがしの押領使あふりやうしなどいふやうなる者のありけるが、土大根つちおほねを万にいみじき薬とて、朝ごとに二つづゝ焼きて食ひけること、年久ひさしくなりぬ。

或時あるときたちの内に人もなかりけるひまをはかりて、敵襲 かたきおそひ来りて、囲み攻めけるに、館の内につはもの二人出で来て、命を惜しまず戦ひて、皆追ひ返してんげり。いと不思議に覚えて、「日比ひごろこゝにものし給ふとも見ぬ人々の、かく戦ひし給ふは、いかなる人ぞ」と問ひければ、「年来としごろ頼みて、朝な朝な召しつる土大根らに候う」と言ひて、せにけり。

深くしんいたしぬれば、かゝる徳もありけるにこそ。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月