徒然草
賀茂の岩本・橋本は、業平・実方なり。人の常に言ひ粉へ侍れば、一年参りたりしに、老いたる宮司の過ぎしを呼び止めて、尋ね侍りしに、「実方は、御手洗に影の映りける所と侍れば、橋本や、なほ水の近ければと覚え侍る。吉水和尚の、
月をめで花を眺めしいにしへのやさしき人はこゝにありはら
と詠み給ひけるは、岩本の社とこそ承り置き侍れど、己 れらよりは、なかなか、御存知などもこそ候はめ」と、いとやうやうしく言ひたりしこそ、いみじく覚えしか。
今出川院近衛とて、集どもにあまた入りたる人は、若かりける時、常に百首の歌を詠みて、かの二つの社の御前
の水にて書きて、手向けられけり。まことにやんごとなき誉れありて、人の口にある歌多し。作文・詞序など、いみじく書く人なり。
松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。
変更箇所
ルビ付きHTMLファイルに変換
ルビをカタカナからひらがなに変更
行間処理(行間180%)
段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月