徒然草
 

■第六十七段

賀茂かも岩本いはもと・橋本はしもとは、業平なりひら・実方さねかたなり。人の常に言ひまがへ侍れば、一年ひととせ参りたりしに、老いたる宮司みやづかさの過ぎしを呼びとどめて、たずね侍りしに、「実方は、御手洗みたらしに影の映りける所と侍れば、橋本や、なほ水の近ければと覚え侍る。吉水和尚よしみづのくわしやうのの、

月をめで花を眺めしいにしへのやさしき人はこゝにありはら

と詠み給ひけるは、岩本のやしろとこそうけたまはり置き侍れど、己 おのれらよりは、なかなか、御存知などもこそ候はめ」と、いとやうやうしく言ひたりしこそ、いみじく覚えしか。

今出川院近衛いまでがはヰんのこのヱとて、しふどもにあまた入りたる人は、若かりける時、常に百首の歌を詠みて、かの二つの社の御前みまへ の水にて書きて、手向たむけられけり。まことにやんごとなきほまれれありて、人の口にある歌多し。作文さくもん・詞序しじよなど、いみじく書く人なり。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
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  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月