徒然草
 

■第五十六段

久しくへだたりて逢ひたる人の、我が方にありつること、数々に残りなく語り続くるこそ、あいなけれ。隔てなく馴れぬる人も、ほど経て見るは、恥づかしからぬかは。つぎざまの人は、あからさまに立ち出でても、今日けふありつることとて、息も継ぎあへず語り興ずるぞかし。よき人の物語するは、人あまたあれど、一人に向きて言ふを、おのづから、人も聞くにこそあれ、よからぬ人は、誰ともなく、あまたの中にうち出でて、見ることのやうに語りなせば、皆同じく笑ひのゝしる、いとらうがはし。をかしきことを言ひてもいたく興ぜぬと、興なきことを言ひてもよく笑ふにぞ、品のほどはかられぬべき。

人の身ざまのよし・あし、ざえある人はそのことなど定め合へるに、おのが身をひきかけて言ひでたる、いとわびし。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月