徒然草
老来りて、始めて道を行ぜんと待つことなかれ。古き墳、多くはこれ少年の人なり。はからざるに病を受けて、忽ちにこの世を去らんとする時にこそ、始めて、過ぎぬる方の誤れることは知らるなれ。誤りといふは、他のことにあらず、速 かにすべきことを緩くし、緩くすべきことを急ぎて、過ぎにしことの悔 しきなり。その時悔ゆとも、かひあらんや。
人は、たゞ、無常の、身に迫りぬることを心にひしとかけて、束の間も忘るまじきなり。さらば、などか、この世の濁りも薄く、仏道を勤むる心もまめやかならざらん。
「昔ありける聖は、人来りて自他の要ことを言ふ時、答へて云はく、「今、火急のことありて、既に朝夕 に逼れり」とて、耳をふたぎて念仏して、つひに往生を遂 げけ