徒然草
 

■第二十九段

静かに思へば、よろづに、過ぎにしかたの恋しさのみぞせんかたなき。

人静まりて後、長きのすさびに、何となき具足ぐそくとりしたため、残し置かじと思ふ反古ほうごなどつる中に、亡き人の手習てならひ、絵かきすさびたる、見でたるこそ、ただ、そのをりの心地すれ。このごろある人のふみだに、久しくなりて、いかなる折、いつの年なりけんと思ふは、あはれなるぞかし。手馴てなれし具足なども、心もなくて、変らず、久しき、いとかなし。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月