徒然草

■第二十二段

何ことも、古き世のみぞしたはしき。今様いまやうは、無下むげにいやしくこそなりゆくめれ。かのの道のたくみの造れる、うつくしき器物うつはものも、古代の姿こそをかしと見ゆれ。

ふみことばなどぞ、昔の反古ほうごどもはいみじき。ただ言ふ言葉も、口をしうこそなりもてゆくなれ。古いにしへは、「車もたげよ」、「火かかげよ」とこそ言ひしを、今様いまやうの人は、「もてあげよ」、「かきあげよ」と言ふ。「主殿寮人数立とのもれうにんじゆたて」と言ふべきを、「たちあかししろくせよ」と言ひ、最勝講さいしやうかう御聴聞所 みちやうもんじよなるをば「御講ごかう」とこそ言ふを、「講廬 かうろ」と言ふ。口をしとぞ、古き人は仰せられし。












松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月