徒然草

■第二十一段

よろづのことは、月見るにこそ、慰むものなれ。ある人の、「月ばかり面白きものはあらじ」と言ひしに、またひとり、「つゆこそなほあはれなれ」と争ひしこそ、をかしけれ。折にふれば、何かはあはれならざらん。

月・花はさらなり、風のみこそ、人に心はつくめれ。岩に砕けて清く流るゝ水のけしきこそ、時をも分かずめでたけれ。「げんしやう日夜 にちやひんがしに流れ去る。愁人しうじんのために止まること少時 しばらくもせず」といへる詩を見侍りしこそ、あはれなりしか。〓康けいかうも、「山沢さんたくに遊びて、魚鳥ぎよてうを見れば、心楽しぶ」と言へり。人遠く、水草みづくさ清き所にさまよひありきたるばかり、心慰むことはあらじ。












松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月