徒然草

■第十八段

人は、おのれをつづまやかにし、おごりを退しりそけて、たからを持たず、世をむさぼらざらんぞ、いみじかるべき。昔より、賢き人の富めるはまれなり。

唐土もろこし許由きよいうといひける人は、さらに、身にしたがへるたくはへもなくて、水をも手してささげて飲みけるを見て、なりひさこといふ物を人の得させたりければ、ある時、木のえだけたりけるが、風に吹かれて鳴りけるを、かしかましとて捨てつ。また、手にむす びてぞ水も飲みける。いかばかり、心のうち涼しかりけん。孫晨そんしんは、冬の月にふすまなくて、藁一束わらひとつかありけるを、夕べにはこれにし、あしたにはをさめけり。

唐土の人は、これをいみじと思へばこそ、しるとどめて世にも伝へけめ、これらの人は、語りも伝ふべからず。












松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月