徒然草

■第十一段

神無月かみなづきのころ、栗栖野くるすのといふ所を過ぎて、ある山里に尋ねること侍りしに、遥かなるこけの細道を踏み分けて、心ぼそく住みなしたるいほりあり。木の葉にうづもるる懸樋かけひしづくならでは、つゆおとなふものなし。閼伽棚あかだなに菊・紅葉もみぢ など折り散らしたる、さすがに、住む人のあればなるべし。

かくてもあられけるよとあはれに見るほどに、かなたの庭に、大きなる柑子 かうじの木の、枝もたわわになりたるが、まはりをきびしく囲ひたりしこそ、少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか。










松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月