徒然草

■第七段

あだし野の露消ゆる時なく、鳥部とりべ山のけぶり立ち去らでのみ住み果つる習ひならば、いかにもののあはれもなからん。世は定めなきこそいみじけれ。

命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。かげろふの夕べを待ち、夏の蝉の春秋はるあきを知らぬもあるぞかし。つくづくと一年ひととせを暮すほどだにも、こよなうのどけしや。飽かず、惜しと思はば、千年ちとせを過 すぐすとも、一夜ひとよの夢の心地こそせめ。住み果てぬ世にみにくき姿を待ち得て、何かはせん。命長ければはぢ多し。長くとも、四十よそぢ に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。

そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出で交らはんことを思ひ、夕べの陽に子孫を愛して、さかゆくすゑを見んまでの命をあらまし、ひたすら世を貪る心のみ深く、もののあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。












松田史生氏が作成したテキストファイルを、岡島昭浩氏が手を加え、さらに江口聡氏がHTML化したファイルを以下のように変更しました。

変更箇所
  ルビ付きHTMLファイルに変換
  ルビをカタカナからひらがなに変更
  行間処理(行間180%)
  段落処理(形式段落ごとに<P>タグ追加、段落冒頭の一字下げを一行下げに変更)
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成13年10月