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短唱
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冬のスケッチ
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★以下の詩編に付けられている通し番号は、本篇草稿が宮沢家に保存されていたままの紙葉順を示すものであって、作者生前の本篇草稿紙葉順を示すものではない。
★紙葉一枚を示すため、始まりに[@@@@@]終わりに[¥¥¥¥¥]をいれた。
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一
冬のスケッチ 四、
※
芽は燐光
樹液はまこと月あかり
※
薄明穹黄ばみ濁り
こひのこゝろはあわたゞし
こひのこゝろはつめたくかなし
※
西の黄金の
尊きうつろに もつれし枝はうかびたり
枝にとまりて からす首をうごかせり。
※
さびしきは
雪のはんのきのめばな
雪のはんのきのその燐光
※
しらくもの
日にかゝれば
高く飛ぶ鳥かな。
¥¥¥¥¥
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二
※
日いよいよ白き火を燃したまひ
ひかるは電信ばしらの瀬戸の碍子。
※
銀のモナドを燃したまひ
日輪そらに かゝります
早坂の黒すぎは
みだれごゝろをしづに立つ。
※
のばらにからだとられたり
水なめらかにすべりたり。
※
うすぐもり
日は白き火を波に点じ
レンブラントの魂ながれ
小笹は宙にうかびたり
※
これは浅葱の春の水なり
まさに浅葱の春の水なり
かずのぶが蒔絵の中の浅葱水なり。
¥¥¥¥¥
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三
※
雪ふれば杉あたらしく呼吸す
雪霽るれば杉あたらしく呼吸す
※
雪すこしふり
杉にそゝぐ飴いろの日光
なほ雪もよひ 白日輪、
からすさわぐ
※ 農園設計
十月はひまはりを見る。
夏はケールとはなやさい。
六月はひなげしを見る
春はたねを見る。
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四
そのとき人工の火ひらめきて
水より滋くもえあがり
またほのぼのと消え行けり。
※
なにゆゑかのとき きちがひの
透明クラリオネット、
わらひ軋り
わらひしや。
※
たばこのけむり かへって天の
光の霧をかけわたせり。
※
せんたくや、
そのときまったく泪をながし
やがてほそぼそ泪かわき
すがめひからせ
インバネスのえりをなほせり。
※
三疋の
さびしいからす
¥¥¥¥¥
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五
三人の
げいしゃのあたま。
※
あたかもそのころ
キネオラマの支度とて
紫の燐光らしきもの
横に舞台をよぎりたり
※
(その川へはしをかけたらなんでもないぢゃ
ありませんか。)と、おもひつめし故かへって
愚のことを云へり。
※
あけがたを
雲がせわしくながれて行き
上等兵は
たばこの火をぴたりと地面になげすてる。
※
劇場のやぶれしガラス窓に
するどくも磨かれ、むらさきの身を光らしめ
西のみかづき歪みかゝれり。
¥¥¥¥¥
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六
ぬすまんとして立ち膝し、
その膝、光りかゞやけり
ぬすみ得ず 十字燐光
やがていのりて消えにけり。
※ おもかげ
心象の燐光盤に
きみがおもかげ来ぬひまは
たまゆらをほのにやすらふ
そのことのかなしさ。
天河石、心象のそら
うるはしきときの
きみがかげのみ見え来れば
せつなくてわれ泣けり。
※ 寂静印
ぱんのかけらこぼれ
いんくの雫かわきたり。
¥¥¥¥¥
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七
※
九時六分のかけ時計
その青じろき盤面に
にはかにも
天の栄光そゝぎきたれり。
※
しろびかりが室をこめるころ
澱粉ぬりのまどのそとで
しきりにせのびをするものがある
しきりにとびあがるものがある
きっとゾンネンタールだぞ。
※
さかなのねがひはかなし
青じろき火を点じつつ。
まことはかなし
¥¥¥¥¥
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八
め居たれ
※
けむりかゝれば はんのきの
酸化銅の梢 さっとばかりに還元す。
※
はんのきよ
きりのこされしはんのきよ
褐の雄ばなの房垂るゝ
その房もまたわれに与へよ。
与へずや。
※
ここの並木の松の木は
あんまり混み過ぎますよ
あんまり枝がこみあって
せっかくの尾根の雪も
また、そら、あの山肌の銅粉も
なにもかもさっぱり見えないぢゃありませ
んか。すこし間伐したらどうです。
※
雪がふかいのならば
¥¥¥¥¥
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九
仕方もありませんけれど
これではあんまり
みちがくらすぎはしませんか。
※
いつの間にやら
銅粉をまいてけむってゐた山も見えません
し、
藍の山肌がゴリゴリの岩にかはり
川の向ふに黒くそびえて居りました。
※
和賀川のあさぎの波と
天末のしろびかり
緑青の東の丘をわれは見たり
※
(赦したまへ。)
この層はひどい傾斜です。
おまけに峡谷にはいりましてから
にはかに雪が増しました。
※
ぎざぎざに
¥¥¥¥¥
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一〇
ちぎられし
どてのひまより
ひかりの天末
かはるがはるのぞきたり。
※
あすこが仙人の鉄山ですか、
雪がよごれて黄いろなあたり。
※
夏油の川は岩ほりて
浅黄の波を鳴らしたり
雑木と雪のうすけぶり
ましろき波を鳴らしたり。
※
いたゞきの梢どもは
つめたき天にさらされて
けさなほ雪をかむりたり。
※
雪融の山のゆきぞらに
一点白くひかるもの
¥¥¥¥¥
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一一
恐らくは白日輪なりなんを
ひとびとあふぎはたらけり。
※
赤さびの廃坑より
水しみじみと湧きて鳴れり。
※
げに和賀川よ赤さびの
けはしき谷の底にして
春のまひるの雪しろの
浅黄の波をながしたり。
※
和賀川の浅葱の雪代水に
からだのりだす栗の木ら
その根は赤銹によりて養はる。
※
ならび落つる
泉を見んと立ちどまりしとき
かれ葉かさかさと鳴り
透明の雨はふりきたる
雑木のこずえに
¥¥¥¥¥
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一二
日輪白くかゝり在はせど。
※
さっきのごりごりの岩崖で
降り出したのは雨ではなかったぜ
霙らしかったよ。 霙だぜ。
※
わがもとむるはまことのことば
雨の中なる真言なり
あめにぬれ 停車場の扉をひらきしに
風またしとゞ吹き出でて
雲さへちぎりおとされぬ。
※
崖下の
旧式鉱炉のほとりにて
一人の坑夫
妻ときたるに行きあへり
みちには雪げの水ながれ
二疋の犬もはせ来る
されど 空白くして天霧し
町に一つの音もなけれど
¥¥¥¥¥
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一三
※
風の中にて
ステッキ光れり
かのにせものの
黒のステッキ。
※
風の中を
なかんとていでたてるなり
千人供養の
石にともれるよるの電燈
※
やみとかぜとのなかにして
こなにまぶれし水車屋は
にはかにせきし歩みさる
西天なほも 水明り。
※
やみのなかに一つの井戸あり
行商にはかにたちどまり
つるべをとりてやゝしばし
¥¥¥¥¥
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一四
天の川をばながめたり。
あまの川の小き爆発
たよりなく行ける鳥あり
かすかにのどをならしつゝ
ひとはつるベを汲みあぐる。
※ 奉膳
つめたき朝の真鍮に
盛りまつり
こゝろさびしくおろがめば
おん舎利ゆゑにあをじろく
燐光をはなちたまふ。
※
ちり落ち来り
雪となりてつちにつむ
にっぽんなどとよばれたる
この気圏のはなれがたし。
※
桐の実は
¥¥¥¥¥
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一五
このとき凍りし泥のでこぼこも寂まりて
街燈たちならぶ菩薩たちと見えたり
※
弓のごとく
鳥のごとく
昧爽の風の中より
家に帰り来れり。
¥¥¥¥¥
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一六
にはかにも立ち止まり
二つの耳に二つの手をあて
電線のうなりを聞きすます。
※
そのとき桐の木みなたちあがり
星なきそらにいのりたり。
※
みなみ風なのに
こんなにするどくはりがねを鳴らすのは
どこかの空で
氷のかけらをくぐって来たのにちがひない
※
瀬川橋と朝日橋との間のどてで、
このあけがた、
ちぎれるばかりに叫んでゐた、
電信ばしら。
※
風つめたくて
北上も、とぎれとぎれに流れたり
みなみぞら
¥¥¥¥¥
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一七
からす、正視にたえず、
また灰光の桐とても
見つめんとしてぬかくらむなり。
※
たましひに沼気つもり
くろのからす正視にたえず
やすからん天の黒すぎ
ほことなりてわれを責む。
※
きりの木ひかり
赤のひのきはのびたれど
雪ぐもにつむ
カルボン酸をいかにせん。
※
かなしみをやめよ
はやしはさむくして
¥¥¥¥¥
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一八
※
行きつかれ
はやしに入りてまどろめば
きみがほほちかくにあり
(五百人かと見れば二百人
二百人かと見れば五百人)
いつか日ひそみ
すぎごけかなしくちらばれり。
※
散乱のこゝろ
そらにいたり
光のくもを
織りなせり。
¥¥¥¥¥
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一九
冬のスケッチ (五)、
※ 朝
みちにはかたきしもしきて
きたかぜ檜葉をならしたり
贋物師、加藤宗二郎の門口に
まことの祈りのこゑきこゆ
※
実をむすび日をさへぎれる桐のえだあり。
※
すこし置きたるかたしもを
吹きあげしたるきたのかぜ
日輪 はやくもしろびかり
銀の後光を 降らしたり
※
水のしろびかり見れば
こゝろきよめらる
日のしろびかり消ゆれば
うづまきてながるゝなみ
¥¥¥¥¥
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二〇
※
みなみの天末は
白金にしてひらけたれば
はやくもひとの飛び過ぐる。
※ なやみ
なやみは
ただし。
なやみは
白くみゆ。
※
かばかりも
しづむこゝろ、
雪の中にて
蝉なくらしを。
※
そのとき
雪の蝉
又鳴けり。
※
若きそらの母の下を
小鳥ら、ちりのごとくなきて過ぎたり。
¥¥¥¥¥
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二一
※
そらの若き母に
梢さゝぐるくるみの木
くるみのえだの
かぼそい蔓
※
そらしろびかり
くるみとは
げにもあやしき
気圏の底のいきものなるかな。
※
すこしの雪をおとしたる
母のみそらのしろびかり
あらそふはからす
枝をのばすはくるみの木
※
雪すこし降り
杉しづまり
からすども鳴く、鳴く、
からだも折れよと鳴きわたる。
¥¥¥¥¥
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二二
梢ばかりの紺の一本杉が見えたとき
草にからだを投げつければ
わづかに見える天の地図
※
地平線近くのしろびかりは
亜鉛の雪か天末か
うすあかりからかなしみが来るものか。
※
おゝすばるすばる
ひかり出でしな
枝打たれたる黒すぎのこずえ。
※
せまるものは野のけはひ
すばるは白いあくびをする
塚から杉が二本立ち
ほのぼのとすばるに伸びる。
※
すばるの下に二本の杉がたちまして
杉の間に一つの白い塚がありました。
如是相如是性如是体と合掌して
¥¥¥¥¥
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二三
申しましたとき
はるかの停車場の灯の列がゆれました。
※
日曜にすること
運針布を洗濯し
うん針を整理し
試験をみる
それから つばきの花をかき
本をせいりし 手げいをする
とノートのはじに書けるなり。
※
天上に青白い顔が見える。
黄金の輪廓から。
※
ねばつちですから桐はのびないのです。
横に茶いろの枝をひろげ
いっぱいに黒い実をつけてゐます。
台の向ふはしろいそら、
ピンとはられた電信のはりがね。
※
¥¥¥¥¥
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二四
水こぼこぼと鳴る
ひぐれまぢかの笹やぶを、
しみじみとひとりわけ行けり。
※
隔離舎のうしろの杉の脚から
西のそらが黄にひかる
※
雨がふり出し
却って雪は光り出す
※
雪融けの洪水から 杉は
みんな泥をかぶった。
それからつゞいてそらが白く
雪は黄色に横たはり
鷹は空で口をあけて飛び
からすはからだをまげてないた。
※
かれ草は水にはかれ
そらしろびかり
崖の赤砂利は暗くなる。
¥¥¥¥¥
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二五
※
きりあめのよるの中より
一すじ西の青びかり、
はじめは雪とあざわらひ
やがては知りつ落ちのこり
薄明穹のひとかけと
ほのかにわらひ人行けり。
※
これはこれ、はがねをなせる
やみの夜のなつかしき灰いろなり
そらよりは霧をふらしたれば
まちの灯は青く見え
らんかんは夢みたり、
又、鳥そらの方に鳴きて
川水鳴りぬ、これはこれ
まことのやみの灰いろなり。
※
鼓膜をどこからか圧すものがあるぞ
まっくろ林の方でかさかさ歌ってゐる声が、
¥¥¥¥¥
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二六
どうもはっきりわからないぞ。
※
灰いろはがねの夜のそこ
砂利にからだをほうり出せ。
※
灰鋳鉄のよるのそこ
あるき出せば風がふき出す
黒のフィウマス、並木松、
風が軋るぞ あるき出せ。
※
黒松ばやし
近づけば
おれは一つぶ。
林の磁石 松の闇。
※
灰鋳鉄のやみのそこにて
なにごとをひとりいらだち
罵るをとこぞ 天ぎらし。
¥¥¥¥¥
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二七
※
私は線路の来た方をふりかへって見ました。
そこは灰色でたしかに 死にののはらにかは
ってゐたのです。闇もさうでしたしかれく
さもさうでした。
※
シグナルに
にはかに青き火あらはれ
汽車かけ来りたれば
われせきを越しどてに座せり
霧青くふりきたり
列車に明き窓もなく
まことに夜の貨物のみ。
たゞしけむりはシグナルの赤をうつして
ひらめけり。あるひは青くながれたり。
※
(メキシコの
さぼてんの砂っ原から
向ふを見るとなにが見えますか。)
(ポポカテペトル噴火山が見えます。)
¥¥¥¥¥
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二八
(さうです。そんならポポカテペトル噴火山から下の方
を見ると何が見えますか。)
(ポポカテペトル山の上から下を見ますと
主にさぼてんなどが見えます。)
※
つゝましく肩をすぼめし家並に
さかまきひかるしろのくも。
※
雲のしらが 光りてうづまきぬ。
※
なまこぐものヘり
あまりにもしろびかり
まぶしさに
目もあかれず。
※
天狗巣病にはあらねども
あまりにしげきこずえなり
(光の雲と 桜の芽)
※
気圏かそけき霧のつぶを含みて
¥¥¥¥¥
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二九
東京の二月のごとく見ゆるなり
腐植質のぬかるみを
あゆみよりしとき
停車場のガラス窓にて
わらひしものあり
又みぢかきマント着て
税務属も入り来りけり。
※
兄弟の馬喰にして
一人はこげ茶
一人は朝のうぐいすいろにいでたてり
ひげをひねりてかたりたり。
※
白きそらにて 電燈いま消えたり
されば腐植のぬかるみをふみて
ひとびとはたらきいでしなり。
※
電車のはしらはすなほなり
白きそらに行かんとするをふみとまり
※
¥¥¥¥¥
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三〇
※
用なき朝のシグナルの
青めがね白きそらをすかせり
※
栗駒山あえかの雪をたゝえたり
あえかの雲を流したり
天末は銀のいらだち 白びかり
※
しろきそらを
鳥二羽つかれてたゞよひしが
やがてもろともに
高ひのきの梢にとまれり。
※
みつむれば
栗駒山のつらなりの
雪の中よりひかりわき
しろびかり、又黄のひかりわき
わがこゝろの中に影置けり。
※
ぢっとつめたく、松のあしのうごくをなが
¥¥¥¥¥
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三一
※
西は黒くもそらの脚
つめたき天の白びかり
からまるはさいかちのふぢ
埃はかゝるガラス窓
つめたくひるげを終へ
ひとびとのこゝろそぐはず
西の黒くも、しろびかり
暖炉は石墨の粉まぶれ
たまゆらにひのきゆらげば
校長の広き肩はゞ
茶羅沙をくすぼらし門を出づ。
埃はかゝるガラス窓。
※
杉なみのひざし
山ぶきの茎の青から青のオーバ、
¥¥¥¥¥
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三二
いてふのこずえのひざしつくづく
天かけるゆげむら。
※
外套を着て
家を出ましたら
カニスマゾアばかり
きれぎれのくろくもの
中から光って居りました。
※
黒くもの下から
少しの星座があらはれ 橋のらんかんの夢、
そこを急いで その黒装束の
脚の長い旅人が行き
遠くで川千鳥が鳴きました。
※
そら中にくろくもが立ち
西のわづかのくれのこり
銀の散乱の光を見れば
にはかにむねがをどります
¥¥¥¥¥
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三三
※
川が鳴り
雲がみだれ
ぬかるみは
西のすこしの銀の散乱をうつす。
※
川瀬の音のはげしいくらやみで
根子の方のちぎれた黒雲に
むっと立ってゐる電信ばしらあり。
※
西公園の台の上にのぼったとき
大きな影が大股に歩いて行くのをおれは見
た。
※
こめかみがひやっとしましたので
霰かと思って急いでそらを見ましたら
丁度頭の上だけの雲に穴があき
さびしい星が一杯に光って居りました。
それからまたそのことを書きつけて
¥¥¥¥¥
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三四
何座だらうともう一遍そっちを見ましたら
こんどはもうぼんやりした雲がいっぱいで
遠くを汽車がごうとはせました。
※
ほんたうにおれは泣きたいぞ。
一体なにを恋してゐるのか。
黒雲がちぎれて星をかくす
おれは泣きながら泥みちをふみ。
みちばたの小藪に
からだをおとしたとき
停車場の灯の列はゆれ
気圏も泣いてゐるらしい。
※
このとき星またあらはれ或ひはカシオペイ
アかと思ひ、あくびせり
ほのぼのと夜のあくびせり
※
おれのかなしさはどこから来るのだ。
¥¥¥¥¥
@@@@@
三五
※
鉛筆のさきにて
まことたまゆら
ひらめき見えし
燐光よ。
※
でこぼこの地平線
地平線の上のうすあかり
うすあかくしてたゞれたり
いづちより来し光なるらん。
※ 線路
汽車のあかるき窓見れば
こゝろつめたくうらめしく
そらよりみぞれ降り来る。
※
まことのさちきみにあれと
このゆゑになやむ。
※
きみがまことのたましひを
¥¥¥¥¥
@@@@@
三六
まことにとはにあたへよと
いな、さにあらず、わがまこと
まことにとはにきみよとれ、と。
※
ひたすらにおもひたむれど
このこひしさをいかにせん
あるべきことにあらざれば
よるのみぞれを行きて泣く。
※
まことにひとにさちあれよ
われはいかにもなりぬべし。
こはまことわがことばにして
またひとびとのことばなり。
かなしさになみだながるる。
※
みぞれのなかの菩薩たち
応はひゞきのごとくなり
はかなき恋をさながらに
まことのみちにたちもどる。
¥¥¥¥¥
@@@@@
三七
はやくも酵母西をこめ
白日輪のいかめしき
(からすはなほも演習す。)
※
あまりにも
こゝろいたみたれば
いもうとよ
やなぎの花も
けふはとらぬぞ。
※
凍りしく
ゆきのなかからやせたおほばこの黄いろの
穂がみな北に向いてならんでゐます。
※ がけ
杉ばやし
けはしきゆきのがけをよぢ
こゝろのくるしさに
なみだながせり。
※
¥¥¥¥¥
@@@@@
三八
からすそらにてあらそへるとき
あたかも気圏飽和して
さとかゝれる 氷の霧。
※
眩ぐるき
ひかりのうつろ、
のびたちて
いちじくゆるゝ
天狗巣のよもぎ。
※
ながれ入るスペクトルの黄金
ひかりかゞやくよこがほよ
こころもとほくおもふかな。
※
ストウブのかげらふのなかに
浸みひたる 黄いろの靴した。
※
電信のオルゴール
ちぎれていそぐしらくもの
つきのおもてをよぎりては
¥¥¥¥¥
@@@@@
三九
たゞよひてみゆ
かなしき心象
なみださへ
その青黝の辺に
消え行くらし。
※
照準器の三本あしとガラスまど
微風はかすれ、松の針
このよのことかとあやしめり。
※
かれ草と雪の偏光
越え行くときは
ねばつちいけにからす居て
からだ折りまげ水のめり。
※
かれ草と雪の偏光
天をうつせるねばつちの
いけにかゞまり水のむからす。
※
すぎいまはみなみどりにて
¥¥¥¥¥
@@@@@
四〇
葉をゆすり 葉をならし
青ぞらにいきづけること明らけし。
※
ある年の気圏の底の
春の日に
すぎとなづけしいきものすめりき
※
そらの椀
ほのぼのとして青びかり
気圏の底にすぎとなづくる
青きいきものら
さんさんといきづき 葉をゆする
※ 木とそら。
そらの椀
げにもむなしくそこびかり
杉はまさしく青のいきもの
額くらみ。
※
そらはよどみてすぎあかく
¥¥¥¥¥
@@@@@
四一
青じろ、にぶきさびを吐く。
(そのしらくものたえまより
大犬の青き瞳いまぞきらめきのぞくなれ。)
※ もだえ。
月の鉛の雲さびに
つみ、投げやれど
すべもなし。
そらうつす
ねばつちのいけに
かがまりて
からすゐたり、
やまのゆきのひかりを。
※
くれぞらのしたにして
すっぱき雲と
うつろにほえる犬の声と。
※
つぎつぎに
¥¥¥¥¥
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四二
まどのガラスに塵置きて
はるかなるはやしのなかの
たけたかき二本のすぎは
つめたききりと
はるとのなかに立ちまどふ。
※
あかきひのきのかなたより
エステルのくもわきたてば
はるのはむしらをどりいで
かれくさばたのみぎかどを
気がるにまがるインバネス。
※
光波のふるひの誤差により
きりもいまごろかゝるなり
げに白日の網膜の
つかれゆゑひらめける羽虫よ。
※ 光酸
¥¥¥¥¥
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四三
雲の傷みの重りきて、
光の酸をふりそゝぎ、
電線小鳥 肩まるく、
ほのかになきて溶けんとす。
※
かぜのうつろのぼやけた黄いろ
かれ草とはりがね、 郡役所
ひるのつめたいうつろのなかに
あめそゝぎ出でひのきはみだるる。
(まことこの時心象のそらの計器は
十二気圧をしめしたり。)
※
よくも雲を濾し
あかるくなりし空かな。
うつろの呆けし黄はちらけ
子供ら歓呼せり。
※
¥¥¥¥¥
@@@@@
四四
ゆきをかぶりて
青らむ天の
下にあり
※
寂まりの桐のかれ上枝
点々かける赤のうろこぐも
※
火はまっすぐに燃えて
あるひは見えず
このとき
鳩かゞやいて飛んで行く。
※
灰いろはがねのいかりをいだき
われひとひらの粘土地を過ぎ
がけの下にて青くさの黄金を見
がけをのぼりてかれくさをふめり
雪きららかに落ち来れり。
※
トウコイスのいた
くもをはけば
¥¥¥¥¥
@@@@@
四五
かなしむこゝろまたさびしむ。
江釣子森とでんしんばしら。
※
くらいやまと銀のやま
かれくさとでんしんばしら
ラリックス。
※
そらの青びかりと酵母のくも
まことにてなみだかわくことあり。
※
やますそのかれくさに
うすびうづまき
黒き楊の木 三本あり。
※
げにもまことのみちはかゞやきはげしくして
行きがたきかな。行きがたきゆゑにわれと
どまるにはあらず。おゝつめたくして呼吸
もかたくかゞやける青びかりの天よ。かなし
みに身はちぎれなやみにこゝろくだげつゝ
なほわれ天を恋ひしたへり。
¥¥¥¥¥
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四六
さびしき唇
※
栽えられし緑の苣を見れば
あらたに感ず海蒼色のいきどほり
陽光かたぢけなくも波立つを。
※
日輪光燿したまふを
かたくななるわれは泣けり。
※
黒き堆肥は
四月なり。
北の天末
Tourquois。
硝酸化合物は
いきどほろし
※
風青き喪神を吹き
黄金の草いよよゆれたり。
※ 光燿礼讃
¥¥¥¥¥
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四七
白光をおくりまし
にがきなみだをほしたまへり
さらに琥珀のかけらを賜ひ
忿りの青さへゆるしませり。
白光のなかなれば
燐光ゆがむ 妖精も
ころものひださへととのへず
ほのぼのとしてたゞ消え行けり。
※
雨のかなたにて
雪赤くひかれり
また雲さらにくらくして
のこりのやなぎ
芽はゆすれり。
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四八
ボーイ紅茶のグラスを集め
「まっくらでござんすな、
おばけが出さう。」と云ひしなり。
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四九
灼の石炭、光のこな
葡萄の葉と蔓とに降らす
火雲飛び去れば
わが小指ひきつる。
■上記ファイルを、里実文庫が次のように変更しました。
変更箇所
ルビ処理:ルビの記述を<RUBY>タグに変更
行間処理:行間180%
段落処理:形式段落ごとに<P>タグ追加
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成14年2月