原民喜
1
緑色の衝立が病室の内部を塞いでいたが、入口の壁際にある手洗の鏡に映る姿で、妻はベッドに寝たまま、彼のやって来るのを知るのだった。一号室の扉のところまで来ると、奥にいる妻の気配や、そちらへ近づいて行こうとする微かに改まった気分を意識しながら、衝立をめぐって、ベッドのところへ彼がやって来ると、妻はいたずらっぽい微笑で彼を迎える。すると彼には一咋日ここを訪れた時からの隔りがたちまち消えてしまう。小さな卓の花瓶にコスモスの花が、紅い小さなボンボンダリアと一緒に挿してあるのが眼に留ると、彼は一昨日は見なかったダリアの花に、ささやかな変化を見出すのではあったが、午後の明るい光線と澄んだ空気は窓の外から、今もこちら側を覗いている。……
2
ベッドの脇の椅子に腰をおろした彼は、かえって病人のような気持がするのだった。午後になると微熱が出て、眼にうつる世界がかすかに消耗されてゆく、そうすると、彼には外界もそれを映すものも冴えて美しくなった。彼の棲んでいる世界はいま奇妙な結晶体であった。彼はその限られた世界の中を滑り歩いていたし、そうして、妻の病室へやって来る時、その世界はいちばん透きとおっていた。
3
白いカバアの掛った掛蒲団の上に、小豆色の派手な鹿子絞の羽織がふわりと脱捨ててあるのが、雪の上の落葉のようにあざやかに眼にうつるが、枕に顔を沈めている妻は、その顔には何か冴え冴えしたものがあった。二日まえのことだが、彼はこの部屋が薄暗くなり廊下の方がざわつく頃まで、じっと妻の言葉をきいていた。そして、結局しょんぼりと廊下の外へ出て行った。すると翌日、病院へ使いに行った女中が妻の手紙を持って戻り彼に手渡した。小さく折畳んだ便箋に鉛筆で細かに、こまかな心づかいが満たされていた。努めて無表情に読過そうとしたが、彼は底の方で疼くようなものを感じた。
4
こうした手紙をもらうようになったのか――それは彼にとっては、やはり新鮮なおどろきであった。妻は入院の費用にあてるため、郷里に置いてある箪笥を本家で買いとってもらうことを相談した。彼がさびしく同意すると、妻は寝たままで、一頻り彼の無能を云うのであった。十年前嫁入道具の一つとして郷里の土蔵に持込まれたまま、一度も使用されず、その箪笥がひと手に渡るのは彼にとっても身を削がれるような気持だった。だが、身の落目をとりかえすため奮然として闘うてだてが今あるのだろうか。彼は妻の言葉を聞きながら、薄暗くなってゆく窓の外をぼんやり眺めていた。おぼろな空のむこうに、遙かな暗い海のはてに、火を吐いて沈んでゆく艨艟や、熱い砂地に晒されている白骨の姿が、――それは、はっきりした映像としてではなく、何か凍てついた暗雲のようにいつも心を翳らせている。それから、何気ない日々のくらしも、彼の周囲はまだ穏かではあったが、見えない大きい力によって、刻々に壊されているのではないか。どうにもならない転落の中間に、ぽつんと放り出された二人ではないか。そうおもいながら、あのとき彼は妻にかえす言葉を喪っていたのだが……。書斎の椅子にぐったりとして、彼は女中が持って帰った妻の手紙を、その小さな紙片をもとどおりに折畳んだ。悲壮がはじまっていた。そしてそれは、ひっそりとしているのであった。
5
その年の秋も、いらだたしい光線のなかに雨雲が引裂かれていた。そうした、ある落着かない気分の夕刻近く、彼は妻に附添ってその大きな病院の門をくぐった。二階の廊下をいく曲りして静かな廊下に出たところに一号室があった。その部屋の窓からは、遙かに稲田や人家が展望された。前にいた人が残して行ったらしい大きな古びた財布が片隅にあった。一わたり部屋を見まわすと、すぐに妻はベッドに臥さった。はしめて落着く場所にかえったような安らかさと、これから始ろうとする試煉にうち克とうとする初々しさが、痩せた妻の身振りのなかにぱっと呼吸づいていた。だが、彼はひとり置去りにされたように、とぼとぼと日が暮れて家に戻って来たのだった。
6
この時から、二つにたち割られた場所のなかで、彼の逍遥がはじまった。隔日に学校へ通勤している彼は、休みの日を午後から病院へ出掛けて行くのだったが、どうかすると、学校の帰りをそのまま立寄ることもあった。巷で運よく見つけた電熱器を病室の片隅に取つけると、それで紅茶も沸かせた。ベッド脇に据えつけられている小さな戸棚には、林檎やバタがあった。いつのまにか、そこは居心地のいい場所になっていたのだ。
7
いく日も雨が降りつづいた。粗末な学校の廊下も窓もびっしりと湿り、稀れにしかやって来ない電車は、これも雨に痛めつけられていたし、電車の窓の外に見える野づらや海も茫として色彩を失っていた。だが、高台の上に立つ、大きな病院の建物は、牢固な壁や整った窓が下界の雨をすっかり遮っていた。
「あなたが学校まで歩いてゆく路と、家からこの病院まで来る道とどちらが遠いの」と妻はたずねた。「同じ位だね」と彼がこたえると「まあ、そんなに遠い路をこれまで歩いていたのですか」と妻は彼がこの二年間通っていた路の長さがはじめて分ったような顔つきであった。その路の話なら、これまで寝ている妻に何度も語っていたし、彼にとってはもう慣れていて左程苦痛ではなかった。妻はもっといろんなことを訊ねたいような顔つきで、留守にした家のこまごました事柄が絶えず眼さきにちらついているようであった。だが、彼はそうした妻の顔を眺めながら、つきつめた想いで、何かはてしないものを考えていた。いつも二人は相対したまま、相手のなかに把えどころのない解答を求めあっているのであった。そうして時間はすぐに過ぎて行った。夕ぐれが近づいて、立去る時刻が迫ると、彼は静かなざわめきに急き立てられるような気がした。窓の外に雨はまだ絶望的に降りつのっていた。
「バスでお帰りなさい、バスの時間表がここにあるから、も少し待っていればいいでしょう」と妻は雨に濡れて行こうとする彼をひき留めた。
8
停車場とその病院の間を往来するバスが、病院の玄関に横づけにされた。すると、折鞄を抱えた若い医師が二人、彼の座席のすぐ側に乗込んで腰を下ろした。雨はバスの屋根を洗うように流れ、窓の隙間からしぶきが吹込んだ。「よく降りますね、今年は雨の豊年でしょうか」と医師たちは身を縮めて話し合っていた。やがて、バスは揺れて、真暗な坂路を走って行った。
9
銀行の角でバスを降りると、彼はずぶ濡れの鋪道を電車駅の方へ歩いた。雨に痛めつけられた人々がホームにぼんやり立並んでいた。次の停留場で電車を降りると、袋路の方は真暗であった。彼はその真暗な奥の方へとっとと歩いて行った。
10
さきほどから、何か真暗な長いもののなかを潜り抜けて行くような気持が引続いていた。よく降りますね、今年は雨の豊年でしょうか、――そういう言葉がふと非力な人間の呟きとして甦って来るのであった。そういえばバスや電車の席にぐったりと凭掛っている人間の姿も、何か空漠としたものに身を委ねているようである。日々のいとなみや、動作まですべて、眼には見えない一本の糸によってあやつられているのであろうか。彼は書斎のスタンドを捻り、椅子に凭掛ったまま、屋根の上を流れる雨の音をきいていた。病室の妻や、病院の姿が、真暗な雨のなかに点る懐しい小さな灯のようにおもえた。
11
ながい間、書斎の壁に貼りつけていた火口湖の写真が、いつ、どこへ仕舞込んでしまったものか、もう見あたらなかった。が彼はよく、その火口湖の姿をおもい浮べながら、過ぎ去った日のことを考えた。それは彼が妻とはじめてその湖水のほとりを訪れた時、何気なく購い求めた写真であった。毎朝その写真の湖水のところに、窓から射し込む柔かな陽光が縺れ、それをぼんやり甘えた気持で眺める彼であった。……彼は山の中ほどで、息が切なくなっていた。すると妻が彼の肩を軽く叩いてくれた。それから、ふと思いがけぬところに、バスの乗場があり、バスは滑らかに山霧のなかを走った。――それはまだ昨日の出来事のように鮮かであった。だが、二度目にひとりで、その同じ場所を訪れた時の記憶もヒリヒリと眼のまえに彷徨っていた。みじめな、孤独な、心呆けした旅であった。優しいはずの湖水の眺めが、まっ暗な幻影で覆われていた。殆ど自殺未遂者のような顔つきで、彼はそのひとり旅から戻って来た。すると、間もなく彼の妻が喀血したのだった。四年前の秋のことであった。妻の病気によって、あのとき、彼は自らの命を繋ぎとめたのかもしれなかった。
12
久し振りに爽やかな光線が庭さきにちらついていたが、彼は重苦しい予想で、ぐったりとしていた。再検査の紙が彼のところにも送附されて来たのだった。それは、ただ医師の診断を受けて、書込んでもらえばよかったのだが、そういうものが舞込んで来ることに、彼は容易ならぬものを感じた。彼は昨日も訪れたばかりの妻のところへ、また出掛けて行きたくなった。
13
街は日の光でひどく眩しかった。それは忽ち喘ぐように彼を疲らせてしまった。だが、病院の玄関に辿り着くと、朝の廊下は水のように澄んでいた。ひっそりとした扉をあけて、彼が病室の方へ這入って行くと、妻は思いがけない時刻にやって来た彼の姿を珍しげに眺め、ひどく嬉しそうにするのであった。その紙片を見せると、妻はしばらく黙って考えていた。
「診察なら、津軽先生にしてもらえばいいでしょう」と、妻はすぐにまた晴れやかな調子にかえった。
「お天気がいいので訪ねて来てくれたのかと思ったら、そんなことの相談でしたの」と妻は軽く諧謔をまじえだした。「御飯を食べてお帰りなさい、久し振りに旦那さんと一緒に御飯なりと頂きましょうよ」
14
妻は努めて、そして無造作に、いま重苦しい考を追払おうとしていた。……赤いジャケツを着た、はち切れそうな娘が、運搬車を押して昼食を持って来た。糖尿試験食の皿と普通の皿と、ベッド・テーブルの上に並べられると、御馳走のある試験食の方の皿から、普通食の皿へ、妻は箸でとって彼に頒つのだった。
15
翌日、約束の時間に出掛けて行くと、妻のところに立寄った津軽先生は、軽く彼に会釈して、廊下の外へ彼を伴なって行った。医局の前を通りすぎて、広い部屋に入ると、彼は上衣のボタンをはずした。妻のひどく信頼している津軽先生は、指さきから、ものごしにいたるまで、静かにととのった気品があった。一度は軍医として出征したこともあるのだが、荒々しいものの、まるで感じられない人柄であった。その、いつも妻の体を調べている指さきが、いま彼の背を綿密に打診していた。すると、かすかに甘えたいような魔術が読みとられた。津軽先生はペンを執って、再検査の用紙の胸部疾患の欄に二三行書込んで行った。「脚気の気味もあるようですね」と先生は呟いた。
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診察がすむと、彼はぐったりして、廊下の方へ出て行ったが、眼のまえの空間が茫と疼く疲労感で一杯になっていた。それから、妻の病室へ戻って来ると、パッと何か渦巻く色彩があった。いま妻のベッドの脇には、近所の細君が二人づれで見舞に来ていた。テーブルの上に菊の花が乱れた儘になっていた。いつもくすんだ身なりをしている隣組の女たちの、こうした、たまの盛装が、この部屋の空気を落着かなくしているのだろうか。……「ひどい南風ですね」と細君のひとりは窓の方を眺めながら云った。そういえば、リノリウムの廊下まで、べとべとと湿気ていたし、ガラス窓の外は茫と白くふくれ上って揺れかえしているのであった。見舞客が帰って行くと、妻はぐったりした顔つきで、枕に頭を沈めた。その頬はかすかに火照っているようであった。
17
その南風が吹き募ると、海と空が茫と脹らんで白く燃え上るようであった。どうかすると真夏よりも酷しい光線で野の緑が射とめられていた。落着のないクラスの生徒たちは、この風が吹きまくるとき、ことに騒々しかった。彼はときどき教壇の方から眼を運動場のはてにある遠い緑の塊りに対けていた。舞上る砂埃に遮られて、それは森とも丘とも見わけのつかぬ茫漠とした眺めではあったが、あの混濁のなかに一つの清澄が棲んでいて、それが頻りに向うから彼の魂を誘っているようだった。すぐ表の坂を轟々と戦車が通りすぎて行った。すると、かぼそい彼の声は騒音と生徒の喚きで、すっかり捩ぎとられてしまうのであった。
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その風が鎮まると、漸く秋らしい青空が眺められた。澄んだ午後の光線は電車の中にも流れ込んでいた。痩せ細った老人が萎びたコスモスの花を持って、恐しい顔つきのまま座席に蹲っている。ある小駅につづく露次では、うず高くつみ重ねられた芋俵をめぐって、人が蟻のように動いていた。よじくれた榎と叢のはてに、浅い海が白く光っていた。そうした眺めは、彼にとってはもう久しく見馴れている風景ではあったが、なぜか近頃、はっきりと輪郭をもって、小さな絵のように彼の眼の前にとまった。その絵を妻に頒ち与えたいような気持で、病院の方へ足を運んでいることがあった。
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胸の奥に軽く生暖かい疼きを感じながら、彼は繊細なものの翳や、甘美な聯想にとり縋るように、歩き廻っていた。家と病院と学校と、その三つの間を往ったり来たりする靴が、溝に添う曲り角を歩いていた。そこから坂道を登って行けば病院だったが、その辺を歩いている時、ふと彼の時間は冷やかな秋の光で結晶し、永遠によって貫かれているような気がした。それから、病院の長い長い廊下や、大概、彼が行くときか帰りかにきっと出逢う中風患者の姿、合同病室の扉の方から喰
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だが、彼の妻が白い寝巻の上にパッと派手な羽織をひっかけ、「その辺まで見送ってあげましょう」と、外の廊下の曲り角まで一緒について来て、「ここでおわかれ」と云った時、彼はかすかに後髪を牽
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ひとりで、附添も置かず、その部屋で暮している妻は、彼が訪れて行くたびに、何かパッと新鮮な閃
「熱はもうすっかり退
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彼は妻の口振りから津軽先生の動作まで目に浮ぶようであった。……明るい窓辺
「わかったの、わかったのよ」
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妻は彼が部屋に這入って行くと、待兼ねていたように口をきった。
「もうこれからは、独
「尿を舐
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妻はさびしげに笑った。だが、笑う妻の顔には悲痛がピンと漲
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ある午後、彼の眼の前には、透きとおった、美しい、少し冷やかな空気が真二つにはり裂け、その底にずしんと坐っている妻の顔があった。
「この頃は、毎朝、お祈りをしているの、もう祈るよりほかないでしょう、つまらないこと考えないで一生懸命お祈りするの」
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そう云って妻はいまもベッドの上に坐り直り、祈るような必死の顔つきであった。すると、白い壁や天井がかすかに眩暈
…………………………
「こんどおいでのとき聖書を持って来て下さい」
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妻はうち砕かれた花のような笑
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真昼の電車の窓から海岸の叢
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それから、ある午後、彼が教室で授業していると、ふと窓の外の方があやしく気にかかった。リーダーを持ったまま、彼は硝子窓
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彼はそっと窓の方の扉をあけて、いつものベランダに出てみた。冷たい空気が頬にあたり、すぐ真下に見える鈴懸
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彼は廊下の椅子に腰を下ろして待った。約束の時刻は来ていたが先生の姿は見えなかった。すぐ目の前を、医者や看護婦や医学生たちが、いく人もいく人も通りすぎて行った。やがて廊下はひっそりとして、冷え冷えして来た。めっきり暗くなった廊下で彼はいつまでも待った。よくない予感がしきりにしていたが、そうして待たされているうちに、もう彼は何も考えようとはしなかった。ただ、この世の一切から見離されて、極地のはてに、置きざりにされたような、暗い、冷たい、突き刺すような感覚があった。
「遅くなりました」ふと目の前に津軽先生の姿が現れた。
「召集がかかりましたので」先生は笑いながら穏やかな顔つきであった。急に彼は眼の前が真暗になり、置きざりにされている感覚がまたパッと大きく口を開いた。誰か女のつれが向うの廊下からちらとこちらを覗
「インシュリンのことでしたね、あの薬はあなたの方では手に這入
「まるで、あてがないのです」
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彼は歪
「そうですか、それでは僕が出て行ったあとも、引きつづいて、ここへ取寄せるように手筈
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そういって先生はもう立去りそうな気配であった。彼はとり縋って、何かもっと訊
「それでは失礼します、お大切に」先生は軽く頷
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日が短くなっていた。病院を出て家に戻って来るまでに、あたりは見る見るうちに薄暗くなってゆき、それが落魄
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……弥生
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彼は歩きながら『奥の細道』の一節を暗誦
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……幻のちまたに離別の泪をそゝく
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今も目の前を電車駅に通じる小路へ、人はぞろぞろと続いて行った。
●表記について
・本文中の※は、底本では次のような漢字
明るい※気 |
第3水準1-87-32 |
■上記ファイルを、里実文庫が次のように変更しました。
変更箇所
ルビ処理:ルビの記述を<RUBY>タグに変更
行間処理:行間180%
段落処理:形式段落ごとに<P>タグ追加
:段落冒頭の一字下げを一行下げに変更
:段落番号の追加
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成14年8月