八十八夜

       太宰 治


    あきらめよ、わが心、けものの眠りを眠れかし。(C・B)

1

笠井はじめさんは、作家である。ひどく貧乏びんぼうである。このごろ、ずいぶん努力して通俗つうぞく小説を書いている。けれども、ちっとも、ゆたかにならない。くるしい。もがきあがいて、そのうちに、けてしまった。いまは、何も、わからない。いや、笠井さんの場合、何もわからないと、そう言ってしまっても、ウソなのである。ひとつ、わかっている。一寸いっすんさきはやみだということだけが、わかっている。あとは、もう、何もわからない。ふっと気がついたら、そのような五里霧中ごりむちゅうの、山なのか、野原なのか、街頭がいとうなのか、それさえ何もわからない、ただ身のまわりに不愉快な殺気だけがひしひしと感じられ、とにかく、これは進まなければならぬ。一寸さきだけは、わかっている。油断なく、そろっと進む、けれども何もわからない。負けずに、つっぱって、また一寸そろっと進む。何もわからない。恐怖きょうふはらい追い払い、無理に、すさんだ身振りで、また一寸、ここは、いったいどこだろう、なんの物音もない。そのような、無限むげん静寂せいじゃくな、真暗闇まっくらやみに、笠井さんは、いた。

2

進まなければならぬ。何もわかっていなくても絶えず、一寸でも、五分ごぶでも、身を動かし、進まなければならぬ。腕をこまぬいてこうべを垂れ、ぼんやりたたずんでいようものなら、――一瞬間いっしゅんかんでも、懐疑かいぎ倦怠けんたいに身を任せようものなら、――たちまち玄翁げんのうで頭をぐゎんとやられて、周囲の殺気は一時に押し寄せ、笠井さんのからだは、みるみるはちの巣になるだろう。笠井さんには、そう思われて仕方がない。それゆえ、笠井さんは油断ゆだんをせず、つっぱって、そろ、そろ、一寸ずつ真の闇の中を、油汗あぶらあせ流して進むのである。十日、三月みつき、一年、二年、ただ、そのようにして笠井さんは進んだ。まっくら闇に生きていた。進まなければならぬ。死ぬのが、いやなら進まなければならぬ。ナンセンスに似ていた。笠井さんも、流石さすがに、もう、いやになった。八方ふさがり、と言ってしまうと、これもウソなのである。進める。生きておれる。真暗闇でも、一寸さきだけは、見えている。一寸だけ、進む。危険はない。一寸ずつ進んでいるぶんには、間違いないのだ。これは、絶対に確実のように思われる。けれども、――どうにも、この相も変らぬ、無際限むさいげんの暗黒一色の風景は、どうしたことか。絶対に、ああ、ちりほどの変化も無い。光は勿論もちろん、嵐さえ、無い。笠井さんは、闇の中で、手さぐり手さぐり、一寸ずつ、いも虫の如く進んでいるうちに、静かに狂気を意識した。これは、ならぬ。これは、ひょっとしたら、断頭台への一本道なのではあるまいか。こうして、じりじり進んでいって、いるうちに、いつとはなしに自滅する酸鼻さんびの谷なのではあるまいか。ああ、声あげて叫ぼうか。けれども、むざんのことには、笠井さん、あまりの久しい卑屈ひくつり、自身の言葉を忘れてしまった。叫びの声が、出ないのである。走ってみようか。殺されたって、いい。人は、なぜ生きていなければ、ならないのか。そんな素朴そぼく命題めいだいも、ふいと思い出されて、いまは、この闇の中の一寸歩きに、ほとほと根も尽き果て、五月のはじめ、あり金さらって、旅に出た。この脱走だっそうが、間違っていたら、殺してくれ。殺されても、私は、微笑ほほえんでいるだろう。いま、ここで忍従にんじゅうくさりを断ち切り、それがために、どんな悲惨ひさん地獄じごくに落ちても、私は後悔こうかいしないだろう。だめなのだ。もう、これ以上、私は自身を卑屈ひくつにできない。自由!

3

そうして、笠井さんは、旅に出た。

4

なぜ、信州しんしゅうを選んだのか。他に、知らないからである。信州にひとり、湯河原ゆがわらにひとり、笠井さんの知っている女が、いた。知っている、と言っても、寝たのではない。名前を知っているだけなのである。いずれも宿舎しゅくしゃの女中さんである。そうして信州のひとも、伊豆のひとも、つつましく気がきいて、口下手くちべたの笠井さんには、何かと有難ありがたいことが多かった。湯河原には、もう三年も行かない。いまでは、あのひとも、あの宿屋にいないかも知れない。あのひとが、いなかったら、なんにもならない。信州、上諏訪かみすわの温泉には、去年の秋も、下手へたくその仕事をまとめるために、行って、五、六日お世話になった。きっと、まだ、あの宿で働いているにちがいない。

5

めちゃなことをしたい。思い切って、めちゃなことを、やってみたい。私にだって、まだまだロマンチシズムは、残って在るはずだ。笠井さんは、ことし三十五歳である。けれどもかみの毛もうすく、歯も欠けて、どうしても四十歳以上のひとのように見える。つまと子のために、また多少は、俗世間ぞくせけんへの見栄みえのために、何もわからぬながら、ただ懸命けんめいに書いて、お金をもらって、いつとは無しに老けてしまった。笠井さんは、行い正しい紳士しんしである、と作家仲間が、決定していた。事実、笠井さんは、良い夫、良い父である。生来の臆病おくびょうと、過度の責任感の強さとが、笠井さんに、いわば良人おっと貞操ていそうをも固く守らせていた。口下手ではあり、行動は極めて鈍重どんじゅうだし、そこは笠井さんも、あきらめていた。けれども、いま、おのれの芋虫いもむしに、うんじて、爆発ばくはつして旅に出て、なかなか、めちゃな決意をしていた。何か光を。

6

下諏訪まで、切符きっぷを買った。家を出て、まっすぐに上諏訪へ行き、わきめも振らずあの宿へみ、そうして、いきせき切って、あのひと、いますか、あのひと、いますか、とさわぎたてる、そんな形になるのが、いやなので、わざと上諏訪から一つさきの下諏訪しもすわまで、切符を買った。笠井さんは、下諏訪には、まだいちども行ったことがない。けれども、そこで降りてみて、いいようだったら、そこで一泊して、それから多少、迂余曲折うよきょくせつして、上諏訪のあの宿へ行こう、という、きざな、あさはかな気取りである。含羞がんしゅうでもあった。

7

汽車に乗る。野も、畑も、緑の色が、うれきったバナナのようなにおいさえ感ぜられ、いちめんに春が爛熟らんじゅくしていて、きたならしく、青みどろ、どろどろけて氾濫はんらんしていた。いったいに、この季節には、べとべと、せるほどの体臭たいしゅうがある。

8

汽車の中の笠井さんは、へんに悲しかった。われに救いあれ。みじんも冗談じょうだんでなく、そんな大袈裟おおげさな言葉を仰向あおむいてこっそりつぶやいた程である。懐中かいちゅうには、五十円と少し在った。 「アンドレア・デル・サルトの、……」

9

ばかに大きな声で、突然そんなことを言い出した人があるので、笠井さんは、うしろを振りむいた。登山服着た青年が二人、同じ身拵みごしらえの少女が三人。いま大声を発した男は、その一団のリイダア格の、ベレ帽をかぶった美青年である。少し日焼けして、仲々おしゃれであるが、下品である。

10

アンドレア・デル・サルト。その名前を、そっと胸のうちで誦してみて、笠井さんは、どぎまぎした。何も、浮んで来ないのだ。忘れている。いつか、いつだったか、その名を、仲間と共に一晩言って、なんだか議論ぎろんをしたような、それは遠い昔のことだったように思われるけれども、たしかに、あれは問題の人だったような気がするのだが、いまは、なんにもわからない。記憶が、よみがえって来ないのだ。ひどいと思った。こんなにも、綺麗きれいさっぱり忘れてしまうものなのか。あきれたのである。アンドレア・デル・サルト。思い出せない。それは、一体、どんな人です。わからない。笠井さんは、いつか、いつだったか、その人にいて、たしかに随筆ずいひつ書いたことだってあるのだ。忘れている。思い出せない。ブラウニング。――ミュッセ。――なんとかして、記憶のつるをたどっていって、その人の肖像しょうぞうに行きつき、あッ、そうか、あれか、と腹に落ち込ませたく、身悶みもだえをして努めるのだが、だめである。その人が、どこの国の人で、いつごろの人か、そんなことは、いまは思い出せなくていいんだ。いつか、むかし、あのとき、その人に寄せた共感を、ただそれだけを、いま実感として、ちらと再びつかみたい。けれども、それは、いかにしても、だめであった。浦島太郎うらしまたろう。ふっと気がついたときには、白髪はくはつ老人ろうじんになっていた。遠い。アンドレア・デル・サルトとは、再び相見ることは無い。もう地平線のかなたに去っている。雲煙うんえん模糊もこである。 「アンリ・ベックの、……」背後の青年が、また言った、笠井さんは、それを聞き、ふたたびほおを赤らめた。わからないのである。アンリ・ベック。だれだったかなあ。たしかに笠井さんは、その名を、つて口にし、また書きしたためたこともあったような気がするのである。わからぬ。ポルト・リッシュ。ジェラルディ。ちがう、ちがう。アンリ・ベック。……どんな男だったかなあ。小説家かい? 画家じゃないか。ヴェラスケス。ちがう。ヴェラスケスって、なんだい。突拍子とっぴょうしないじゃないか。そんなひと、あるかい? 画家さ。ほんとうかい? なんだか、全部、心細くなって来た。アンリ・ベック。はてな? わからない。エレンブルグとちがうか。冗談じょうだんじゃない。アレクセーフ。露西亜ロシア人じゃないよ。とんでもない。ネルヴァル。ケラア。シュトルム。メレディス。なにを言っているのだ。あッ、そうだ、デュルフェ。ちがうね。デュルフェって、誰だい?

11

何も、わからない。滅茶苦茶めちゃくちゃに、それこそ七花八裂である。いろんな名前が、なんの連関れんかんもなく、ひょいひょい胸に浮んで、乱れて、泳ぎ、けれども笠井さんには、そのたくさんの名前の実体を一つとして、鮮明せんめいに思い出すことができず、いまは、アンドレア・デル・サルトと、アンリ・ベックの二つの名前の騒ぎではない。何もわからない。口をついて出る、むかしの教師の名前、ことごとくが、においも味も色彩しきさいもなく、笠井さんは、ただ、聞いたような名前だなあ、誰だったかなあ、を、ぼんやりりかえしている仕末しまつであった。一体あなたは、この二、三年何をしていたのだ。生きていました。それは、わかっている。いいえ、それだけで精一ぱいだったのです。生活のことは、少し覚えました。日々の営みの努力は、ひんまがったくぎを、まっすぐにめ直そうとする努力に、全く似ています。何せ小さい釘のことであるから、ちからの容れどころが無く、それでも曲った釘を、まっすぐに直すのには、ずいぶん強い圧力が必要なので、傍目はためには、ちっとも派手でないけれども、もそもそ、満面にしゅをそそいで、いきんでいました。そうして笠井さんは、自分ながら、どうも、はなはだ結構でないと思われるような小説を、どんどん書いて、全く文学を忘れてしまった。けてしまった。ときどき、こっそり、チエホフだけを読んでいた。その、くっきり曲った鉄釘かなくぎが、少しずつ、少しずつ、まっすぐに成りかけて、借金しゃっきんもそろそろ減って来たころ、どうにでもなれ! 笠井さんは、それまでの不断の地味な努力を、泣きべそかいて放擲ほうてきし、もの狂おしく家を飛び出し、いのちをして旅に出た。もう、いやだ。忍ぶことにも限度げんどる。とても、この上、忍べなかった。笠井さんは、だめな男である。 「やあ、やつたけだ。やつがたけだ。」

12

うしろの一団から、れいの大きい声が起って、 「すげえなあ。」 「荘厳そうごんね。」と、その一団の青年、少女、口々に、こまたけ偉容いよう賞賛しょうさんした。

13

八が岳ではないのである。駒が岳であった。笠井さんは、少し救われた。アンリ・ベックを知らなくても、アンドレア・デル・サルトを思い出せなくっても、笠井さんは、あの三角にとがった銀色の、そうしていま夕日を受けてバラ色に光っているあの山の名前だけは、知っている。あれは、駒が岳である。断じて八が岳では、ない。わびしい無知むちな誇りではあったが、けれども笠井さんは、やはりほのかな優越感ゆうえつかんを覚えて、少しほっとした。教えてやろうか、と鳥渡ちょっとこしを浮かしかけたが、いやいやと自制じせいした。ひょっとしたら、あの一団は、雑誌社か新聞社の人たちかも知れない。談話だんわの内容が、どうも文学に無関心の者のそれでは無い。劇団関係の人たちかも知れない。あるいは、高級な読者かも知れない。いずれにもせよ、笠井さんの名前ぐらいは、知っていそうな人たちである。そんな人たちのところへ、のこのこ出かけて行くのは、なんだか自分のろくでもない名前を売りつけるようで、面白くない。軽蔑けいべつされるにちがいない。慎しまなければ、ならぬ。笠井さんは、溜息ためいきついて、また窓外そうがいこまたけを見上げた。やっぱり、なんだかいまいましい。ちえっ、ざまあ見ろ。アンリ・ベックだの、アンドレア・デル・サルトだの、生意気なこと言っていても、駒が岳を見て、やあ八が岳だ、荘厳そうごんねなんて言ってやがる。八が岳は、ね、もっと信濃へはいってから、この反対側のほうに見えるのです。笑われますよ。これは、駒が岳。別名、甲斐駒かいこま。海抜二千九百六十六メートル。どんなもんだい、と胸の奥で、こっそりタンカに似たものをつぶやいてみるのだが、どうもわれながら、えない。俗っぽく、貧しく、みじんも文学的な高尚こうしょうさが無い。変ったなあ、としんから笠井さんは、苦笑した。笠井さんだって、五、六年まえまでは、新しい作風を持っている作家として、二、三の先輩の支持しじを受け、読者も、笠井さんを反逆的な、ハイカラな作家として喝采かっさいしたものなのであるが、いまは、めっきり、だめになった。そんな冒険の、ハイカラな作風など、どうにも気はずかしくて、いやになった。一向に、気がはずまないのである。そうしてすこぶる、非良心的な、その場限りの作品を、だらだら書いて、枚数のけひきばかりして生きて来た。芸術げいじゅつの上の良心なんて、結局は、虚栄きょえいの別名さ。浅墓あさはかな、つめたい、むごいエゴイズムさ。生活のための仕事にだけ、愛情があるのだ。陋巷ろうこうの、つつましく、なつかしい愛情があるのだ。そんな申しわけを呟きながら、笠井さんは、ずいぶん乱暴な、でたらめな作品を、眼をつぶって書きなぐっては、発表した。生活への殉愛じゅんあいである、という。けれども、このごろ、いや、そうでないぞ。あなたは、結局、低劣ていれつになったのだぞ。ずるいのだぞ。そんなふうささやきが、ひそひそ耳に忍びこんで来て、笠井さんは、ぎゅっとまじめになってしまった。芸術の尊厳そんげん、自我への忠誠ちゅうせい、そのような言葉の苛烈かれつが、少しずつ、少しずつ思い出されて、これは一体、どうしたことか。一口で、言えるのではないか。笠井さんは、昨今、通俗つうぞくにさえ行きづまっているのである。

14

汽車は、のろのろ歩いている。山の、のぼりにかかったのである。汽車から降りて、走ったほうが、早いようにも思われた。実に、のろい。そろそろ八が岳の全容が、列車の北側に、八つのみねをずらりとならベて、あらわれる。笠井さんは、ひとみをかがやかしてそれを見上げる。やはり、よい山である。もはや日没にちぼつちかく、残光を浴びて山の峯々がかすかに明るく、線の起伏きふくも、こだわらずゆったり流れて、人生的にやさしく、富士山の、人も無げなる秀抜しゅうばつくらべて、相まさること数倍である、と笠井さんは考えた。二千八百九十九メートル。笠井さんはこのごろ、山の高さや、都会の人口や、たい値段ねだんなどを、へんに気にするようになって、そうして、よくまた記憶している。もとは、笠井さんも、そのような調査の記録を、写実の数字を、極端きょくたん軽蔑けいべつして、花の名、鳥の名、樹木の名をさえ俗事と見なして、てんで無関心、うわのそらで、言わば、ひたすらにプラトニックであって、よろずにうといおのれの姿をひそかに愛し、高尚こうしょうなことではないかとさえ考え、甘いほこりにひたっていたものであるが、このごろ、まるで変ってしまった。食卓にのぼる魚の値段を、いちいち妻に問いただし、新聞の政治欄せいじらんを、むさぼるごとく読み、支那しなの地図をひろげては、何やら仔細しさいらしく検討けんとうし、ひとり首肯うなずき、また庭にトマトを植え、朝顔の鉢をいじり、さらに百花譜ひゃっかふ、動物図鑑、日本地理風俗大系ふうぞくたいけいなどを、ひまひまに開いてみては、路傍ろぼうの草花の名、庭に来て遊んでいる小鳥の名、さては日本の名所旧跡めいしょきゅうせきを、なんの意味も無く調べてみては、したり顔して、すましている。なんの放埓ほうらつもなくなった。勇気も無い。たしかに、疑いもなく、これは耄碌もうろくの姿でないか。ご隠居いんきょ老爺ろうや、それと異るところが無い。

15

そうして、いまも、笠井さんはやつたけ威容いようを、ただ、うっとりとながめている。ああ、いい山だなあと、背を丸め、あごを突き出し、悲しそうにまゆをひそめて、見とれている。あわれな姿である。その眼前の、凡庸ぼんような風景に、おめぐみ下さい、とつくづくいのっている姿である。かにに、似ていた。四、五年まえまでの笠井さんは、決してこんな人ではなかったのである。すべての自然の風景ふうけいを、理知りちって遮断しゃだんし、取捨しゅしゃし、いささかも、それにおぼれることなく、言わば「既成概念的きせいがいねんてき」な情緒じょうちょを、薔薇ばらを、すみれを、虫の声を、風を、にやりと薄笑うすわらいして敬遠けいえんし、もつぱら、「我は人なり、人間の事とし聞けば、善きも悪しきも他所事よそごととは思われず、そぞろに我が心をおどらしむ。」とばかりに、人の心の奥底を、ただそれだけを相手に、鈍刀ながらも獅子奮迅ししふんじんした、とかいう話であるが、いまは、まるで、だめである。呆然ぼうぜんとしている。

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――山よりほかに、……

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なぞという大時代的なばかな感慨かんがいにふけって、かすかに涙ぐんだりなんかして、ひどく、だらしない。しばらく、口あいて八が岳を見上げていて、そのうちに笠井さんも、どうやら自身のだらけ加減かげんに気がついた様子で、ひとりで、くるしく笑い出した。がりがり後頭部をきながら、なんたることだ、日頃の重苦しさを、一挙いっきょ雲散霧消うんさんむしょうさせたくて、何か悪事を、死ぬほど強烈きょうれつなロマンチシズムを、とえぎつつ、あこがれ求めて旅に出た。山を見に来たのでは、あるまい。ばかばかしい。とんだロマンスだ。

18

がやがや、うしろの青年少女の一団が、立ち上って下車の仕度をはじめ、富士見駅で降りてしまった。笠井さんは、少し、ほっとした。やはり、なんだか、気取っていたのである。笠井さんは、そんなに有名な作家では無いけれども、それでも、誰か見ている、どこかで見ている。そんな気がして群集ぐんしゅうの間にはいったときには、煙草たばこの吸いかたからして、少し違うようである。とりわけ、多少でも小説に関心持っているらしい人たちが、笠井さんの傍にいるときなどは、誰も、笠井さんなんかに注意しているわけはないのに、それでも、まるで凝固ぎょうこして、首をねじ曲げるのさえ、やっとである。以前は、もっと、ひどかった。あまりの気取りに、窒息ちっそく眩暈めまいをさえ生じたという。むしろ気の毒な悪業あくごうである。もともと笠井さんは、たいへんおどおどした、気の弱い男なのである。精神薄弱症せいしんはくじゃくしょう、という病気なのかも知れない。うしろのアンドレア・デル・サルトたちが降りてしまったので、笠井さんも、やれやれと肩の荷を下ろしたよう、下駄げたいで、両脚りょうあしをぐいとのばし、前の客席に足をせかけ、ふところから一巻の書物を取り出した。笠井さんは、これは奇妙きみょうなことであるが、文士のくせに、めったに文学書を読まない。まえは、そうでもなかったようであるが、この二、三年の不勉強にいては、許しがたいものがある。落語全集なぞを読んでいる。妻の婦人雑誌ふじんざっしなぞを、こっそり読んでいる。いま、ふところから取り出した書物は、ラ・ロシフコオの金言集である。まず、いいほうである。流石さすがに、笠井さんも、旅行中だけは、落語をつつしみ、少し高級な書物を持って歩く様子である。女学生が、読めもしないフランス語の詩集を持って歩いているのと、ずいぶん似ている。あわれな、おていさいである。パラパラ、ページをめくっていって、ふと、「なんじもしおの心裡しんり安静あんせいを得るあたわずば、他処よそこれを求むるは徒労とろうのみ。」というれいの一句を見つけて、いやな気がした。悪い辻占つじうらのように思われた。こんどの旅行は、これは、失敗かも知れぬ。

19

列車が上諏訪かみすわに近づいたころには、すっかり暗くなっていて、やがて南側に、湖が、――むかしのかがみのように白々と冷くひろがり、たったいま結氷けっぴょうからけたみたいで、にぶく光って肌寒はだざむく、岸のすすきのくさむられたままに黒く立って動かず、荒涼悲惨こうりょうひさん風景ふうけいであった。諏訪湖すわこである。去年の秋に来たときは、も少し明るい印象を受けたのに、信州は、春は駄目なのかしら、と不安であった。下諏訪。とぼとぼ下車した。駅の改札口を出て、懐手ふところでして、町のほうへ歩いた。駅のまえに宿の番頭が七、八人並んで立っているのだが、ひとりとして笠井さんを呼びとめようとしないのだ。無理もないのである。帽子ぼうしもかぶらず、普段着ふだんぎ木綿もめんの着物で、それに、下駄げたも、ちびている。お荷物にもつ、一つ無い。一夜とまって、大散財だいさんざいしようと、ひそかに決意している旅客のようには、とても見えまい。土地の人間のように見えるのだろう。笠井さんは、流石さすがに少しびしく、雨さえぱらぱら降って来て、とっとと町を急ぐのだが、この下諏訪という町は、またなんという陰惨低劣いんさんていれつのまちであろう。駄馬だばが、ちゃんちゃんと首の鈴ならしてふるえながら、よろめき歩くのに適した町だ。町はば、せまく、家々ののきは黒く、根強く低く、家の中の電灯は薄暗うすぐらく、ランプか行灯あんどんでも、ともしているよう。底冷えして、みちには大きい石ころがごろごろして、馬のくそだらけ。ときどき、すすけた古い型のバスが、ふとった図体ずうたいをゆすぶりゆすぶり走って通る。木曾路きそじ、なるほどと思った。湯のまちらしいあたたかさが、どこにも無い。どこまで歩いてみても、同じことだった。笠井さんは、溜息ためいきついて、往来のまんなかに立ちつくした。雨が、少しずつ少しずつ強く降る。心細く、泣くほど心細く、笠井さんも、とうとう、このまちを振り捨てることに決意した。雨の中を駅前まで引き返し、自動車を見つけて、上諏訪、滝の屋、大急ぎでたのみます、と、ほとんど泣き声で言って、自動車に乗り込み、失敗、こんどの旅行は、これは、完全に失敗だったかも知れぬ、といても立っても居られぬほどの後悔こうかいを覚えた。

20

あのひと、いるかしら。自動車は、諏訪湖の岸に沿って走っていた。やみの中の湖水は、なまりのように凝然ぎょうぜんと動かず、一魚一介も、死滅しめつしてここには住まわぬ感じで、笠井さんは、わざと眼をそむけて湖水を見ないように努めるのだが、視野のどこかに、その荒涼悲惨が、ちゃんとはいっていて、のど笛かき切りたいような、グヮンと一発ピストル口の中にぶち込みたいような、どこへも持って行き所の無い、たすからぬ気持であった。あのひと、いるかしら。あのひと、いるかしら。母の危篤きとくけつけるときには、こんな思いであろうか。私は、魯鈍ろどんだ。私は、愚昧ぐまいだ。私は、めくらだ。笑え、笑え。私は、私は、没落ぼつらくだ。なにも、わからない。渾沌こんとんのかたまりだ。ぬるま湯だ。負けた、負けた。誰にもおとる。苦悩くのうさえ、苦悩さえ、私のは、わけがわからない。つきつめて、何が苦しと言うならず。冗談よせ! 自動車は、やはり、湖の岸をするする走って、やがて上諏訪のまちの灯が、ぱらぱらと散点さんてんして見えて来た。雨も晴れた様子である。

21

滝の屋は、上諏訪にいて、最も古く、しかも一ばん上等の宿屋である。自動車から降りて、玄関に立つと、 「いらっしゃい。」いつも、きちっと痛いほど襟元えりもとを固く合せている四十歳前後の、その女将おかみは、青白い顔をして出て来て、冷く挨拶あいさつした。「おとまりで、ございますか。」

22

女将は、笠井さんを見覚えていない様子であった。 「お願いします。」笠井さんは、気弱くあいそ笑いして、軽くお辞儀じぎをした。 「二十八番へ。」女将は、にこりともせず、そう小声で、女中に命じた。 「はい。」小さい、十五、六の女中が立ち上った。

23

そのとき、あのひとが、ひょっこり出て来た。 「いいえ。別館、三番さん。」そう乱暴らんぼうな口調で言って、さっさと自分で、笠井さんの先に立って歩いた。ゆきさんといった。 「よく来たわね。よく来たのね。」二度つづけて言って、立ちどまり、「少し、おふとりになったのね。」ゆきさんは、いつも笠井さんを、弟かなんかのようにあつかっている。二十六歳。笠井さんより九つも年下のはずなのであるが、苦労し抜いたひとのような落ちつきが、どこかに在る。顔は天平てんぴょう時代のものである。しもぶくれで、目が細長く、色が白い。黒っぽい、じみなしまの着物を着ている。この宿の、女中頭である。女学校を、三年まで、おさめたという。東京のひとである。

24

笠井さんは、長い廊下を、ゆきさんに案内されて、れいのくせの、右肩を不自然にあげて歩きなから、さっき女将おかみの言った二十八番の部屋を、それとなくさがしていた。ついに見つからなかったけれど、おそらくは、それは、階段の真下あたりの、三角になっている、見るかげもない部屋なのであろう。それにちがいない。この宿で、最下等の部屋に、ちがいない。服装ふくそうが、悪いからなあ。下駄げたが、きたない。そうだ、服装のせいだ、と笠井さんは、しょげ抜いていたのである。階段をのぼって、二階。 「ここが、お好きだったのね。」ゆきさんは、その部屋のふすまをあけ、したり顔して落ちついた。

25

笠井さんは、ほろ苦く笑った。ここは別棟べつむねになっていて、ちゃんとひかえの支度部屋もついているし、まず、最上等の部屋なのである。ヴェランダもあり、宿の庭園ていえんには、去年の秋は桔梗ききょうの花が不思議なほど一ぱい咲いていた。庭園のむこうに湖が、青く見えた。いい部屋なのである。笠井さんは、去年の秋、ここで五、六日仕事をした。 「きょうは、ね、遊びに来たんだ。死ぬほど酒をんでみたいんだ。だから、部屋なんか、どうだって、いいんだ。」笠井さんは、やはり少し気嫌きげんを直して、快活かいかつな口調で言った。

26

宿のどてらに着換え、卓をへだてて、ゆきさんと向い合ってきちんと座って、笠井さんは、はじめて心からにっこり笑った。 「やっと、――」言いかけて、思わず大きい溜息をついた。 「やっと?」とゆきさんも、おだやかに笑って、反問した。 「ああ、やっと。やっと、……なんといったらいいのかな。日本語は、不便ふべんだなあ。むずかしいんだ。ありがとう。よく、あなたは、いてくれたね。たすかるんだ。涙が出そうだ。」 「わからないわ。あたしのことじゃないんでしょう?」 「そうかも知れない。温泉。諏訪湖すわこ。日本。いや、生きていること。みんな、なつかしいんだ。理由なんて、ないんだ。みんなに対して、ありがとう。いや、一瞬間いっしゅんかんだけの気持かも知れない。」きざなことばかり言ったので、笠井さんは、少してれたのである。 「そうして、すぐお忘れになるの? お茶をどうぞ。」 「僕は、いつだって、忘れたことなんかないよ。あなたには、まだわからないようだね。とにかくお湯にはいろう。お酒を、たのむぜ。」

27

ずいぶん意気込んでいたくせに、酒は、いくらもめなかった。ゆきさんも、その夜は、いそがしいらしく、お酒を持って来ても、すぐまた他へ行ってしまうし、ちがった女中も来ず、笠井さんは、ぐいぐいひとりで呑んで、三本目には、すでに程度ていどを越えてってしまって、部屋に備えつけの電話で、 「もし、もし。今夜は、おいそがしい様ですね。誰も来やしない。芸者を呼びましょう。三十歳以上の芸者を、ひとり、呼んで下さい。」

28

しばらくって、また電話をかけた。 「もし、もし。芸者は、まだですか。こんなはな座敷ざしきで、ひとりでってるのは、つまりませんからね。ビイルを持って来て下さい。お酒でなく、こんどは、、ビイルをみます。もし、もし。あなたの声は、いい声ですね。」

29

いい声なのである。はい、はい、と素直すなお応答おうとうするその見知らぬ女の少し笑いをふくんだ声が、った笠井さんの耳に、とてもさわやかに響くのだ。

30

ゆきさんが、ビイルを持ってやって来た。 「芸者衆げいしゃしゅうを呼ぶんですって? およしなさいよ。つまらない。」 「誰も来やしない。」 「きょうは、なんだか、いそがしいのよ。もう、いい加減かげんお酔いになったんでしょう? おやすみなさいよ。」

31

笠井さんは、また電話をかけた。 「もし、もし。ゆきさんがね、芸者は、つまらないと言いました。よせというから、よしました。あ、それから、煙草たばこ。スリイ・キャッスル。ぜいたくを、したいのです。すみません。あなたの声は、いい声ですね。」また、ほめた。

32

ゆきさんに寝床ねどこいてもらって、寝た。寝ると、すぐいた。ゆきさんは、さっさと敷布しきふを換えてくれた。眠った。

33

あくる朝は、うめく程であった。眼をさまし、笠井さんは、ゆうべの自身の不甲斐なさ、無気力を、死ぬほど恥ずかしく思ったのである。たいへんな、これは、ロマンチシズムだ。げろまで吐いちゃった。憤怒ふんぬをさえ覚えて、寝床をって起き、浴場へ行って、広い浴槽よくそうを思いきり乱暴らんぼうに泳ぎまわり、ぶていさいもかまわず、バック・ストロオクまで敢行かんこうしたが、心中の鬱々は、晴れるものでなかった。仏頂ぶっちょうづらして足音も荒々しく、部屋へかえると、十七、八の、からだの細長い見なれぬ女中が、白いエプロンかけて部屋の掃除そうじをしていた。笠井さんを見て、親しそうに笑いながら、「ゆうべ、お酔いになったんですってね。ご気分いかがでしょう。」

34

ふと思い出した。 「あ、君の声、知っている。知っている。」電話の声であった。

35

女は、くつくつ肩を丸くして笑いながら、床の間を拭きつづけている、笠井さんも、気持が晴れて、部屋の入口に立ったまま、のんびり煙草をふかした。

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女は、ふり向いて、 「あら、いいにおい。ゆうべの、あの、外国煙草でしょ? あたし、そのにおい大好き。そのにおい逃がさないで。」雑巾ぞうきんを捨てて、立ち上り、素早く廊下ろうか障子しょうじと、ヴェランダに通ずるドアと、それから部屋のふすまも、みんな、ピタピタしめてしまった。しめて、しまってから、二人どぎまぎした。へんなことになった。笠井さんは、自惚うぬぼれたわけでは無い。いや、自惚れるだけのことはあったのかも知れない。いたずら。悪事が、このように無邪気むじゃきに行われるものだとは、笠井さんも思ってなかった。笠井さんは、可愛かわいらしいと思った。田舎くさい素朴そぼくな、直接に田畑のにおいが感じられて、白い立葵たちあおいを見たと思った。

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すらと襖があいて、 「あの、」ゆきさんが、余念なくそう言いかけて、はっと言葉をんだ。たしかに、五、六秒、ゆきさんは、ものを言えなかったのだ。

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見られた。地球の果の、汚いくさい、まっ黒い馬小屋へ、一瞬どしんと落ちこんでしまった。ただ、もやもや黒煙万丈こくえんばんじょうで、羞恥しゅうち後悔こうかいなど、そんな生ぬるいものではなかった。笠井さんは、このまま死んだふりをしていたかった。 「幾時いくじの汽車で、おちなのかしら。」ゆきさんは、流石さすがに落ちつきを取りもどし、何事もなかったように、すぐ言葉をつづけてくれた。 「さあ。」その女のひとは、奇怪きかいなほどに平気であった。笠井さんは、そのひとを、たのもしくさえ思った。そうして、女を、なかなか不可解ふかかいなものだと思った。 「すぐかえる。ごはんも、要らない。お会計して下さい。」笠井さんは、目をつぶったままだった。まぶしく、おそろしく、目をひらくことが、できなかった。このまま石になりたいと思った。 「承知しょうちいたしました。」ゆきさんは、みじんも、いや味のない挨拶あいさつして部屋を去った。 「見られたね。まぎれもなかったからな。」 「だいじょうぶよ。」女は、しんから、平気で、清らかな目さえしていた。「ほんとうに、すぐお帰りになるの?」 「かえる。」笠井さんは、どてらをいで身仕度をはじめた。下手におていさいをつくろって、やせ我慢がまんして愚図々々ぐずぐずがんばって居るよりは、どうせ失態しったいを見られたのだ、一刻も早く脱走だっそうするのが、かえって聡明そうめいでもあり、素直だとも思われた。

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かなわない気持であった。もう、これで自分も、申しぶんの無い醜態しゅうたいの男になった。一点の清潔せいけつも無い。どろどろ油ぎって、にごって、ぶざまで、ああ、もう私は、永遠にウェルテルではない! 地団駄じだんだむ思いである。行為こういに対しての自責じせきでは無かった。運がわるい。ぶざまだ。もう、だめだ。いまのあの一瞬で、私は完全に、ロマンチックから追放だ。実に、おそろしい一瞬である。見られた。ひともあろうに、ゆきさんに見られた。笠井さんは、醜怪しゅうかいな、奇妙きみょうな表情を浮べて、内心、動乱の火の玉をいだいたまま、ものもわからず勘定かんじょうをすまし、お茶代を五円置いて、下駄げたをはくのも、もどかしげに、 「やあ、さようなら。こんどゆっくり、また来ます。」くやしく、泣きたかった。

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宿の玄関げんかんには、青白い顔の女将をはじめ、また、ゆきさんも、それから先刻せんこくの女中さんも、ならんでていねいにお辞儀じぎをして、一様に、おだやかな、やさしい微笑を浮べて笠井さんを見送っていた。

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笠井さんは、それどころではなかった。もはや、道々、わあ、わあ大声あげて、わめきらして、雷神らいじんごとく走り回りたい気持である。私は、だめだ。シェリイ、クライスト、ああ、プウシュキンまでも、さようなら。私は、あなたの友でない。あなたたちは、美しかった。私のような、ぶざまをしない。私は、見られて、みんごとくそリアリズムになっちゃった。笑いごとじゃない。十万億土、奈落ならくの底まで私は落ちた。洗っても、洗っても、私は、断じて昔の私ではない。一瞬間いっしゅんかんで、私はこんなに無残むざんに落ちてしまった。夢のようだ。ああ、夢であってくれたら。いやいや、夢ではない。ゆきさんは、たしかにあのとき、はっと言葉をんでしまった。ぎょっとしたのだ。私は、舌んで死にたい。三十五年、人は、ここまで落ちなければならぬか。あとに何が在る。私は、永久に紳士しんしでさえない。犬にもおとる。ウソつけ。犬と「同じ」だ。

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どうにも、やり切れなくて、笠井さんは停車場へ行って二等の切符を買った。すこし救われた。ほとんど十年ぶりで、二等車に乗るのである。作品を。――唐突とうとつにそれを思った。作品だけが。――世界のはてに、蹴込けりこまれて、こんどこそは、言わば仕事の重大を、明確に知らされた様子である。どうにかして自身に活路を与えたかった。暗黒王。平気になれ。

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まっすぐに帰宅した。お金は、半分以上も、残っていた。要するに、いい旅行であった。皮肉でない。笠井さんは、いい作品を書くかも知れぬ。




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太宰治全作品集 1
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