読者に

       太宰 治

1

全部、未発表の作品であるから、読者も、その点は、たのしみにして読めるのではないかと思う。

2

こんな物語を書いて、日常の荒涼を彩色しているのであるが、けれども、侘びしさというものは、幸福感の一種なのかも知れない。私は、いまは、そんなに不仕合せではない。みんなが堪えて、私をゆるしてくれている。思うと、それは、ずいぶん苦になることばかり、多いのであるが。

3

「火の鳥」は、書きかけて、一時ていとんの形である。なかなか、むずかしいのである。これに就いては、もうすこし考えさせてもらいたい。   昭和十四年五月                                太宰 治  




使用したテキストファイル
使用権フリー作品集シリーズ
太宰治全作品集 1
  制作・販売:マイクロ テクノロジー株式会社
変更箇所
  ルビ処理:ルビの記述を<RUBY>タグに変更
  行間処理:行間180%
  段落処理:形式段落ごとに<P>タグ追加
        :段落冒頭の一字下げを一行下げに変更
        :段落番号の追加
変更作業:里実福太朗
変更終了:平成14年2月